煩悩遍路24日目「旅療法」―菩提の道場―

24日目(1) 

歩き再開初日ということで、のんびりペースで進む。日程にも余裕がある。

生活道路をてくてく進んでいく。
2週間の休養のおかげで、足の痛みは無くなっていた。
靴のサイズが合わなくなっていた件もすっかり元に戻ったようだ。

この辺りは大学や学校が多い。
平日の通学時間と重なっていたこともあって、多くの学生とすれ違った。
特に挨拶はしないけど、なんとなく会釈はしてくれる。それだけで笑顔になった。

道沿いにあった公民館の表にあるベンチで一服していると、
地元のおばちゃんがお接待をしてくれた。
アクエリアスと、公民館の団扇。そしておしゃべり。

暑くなる季節、この団扇にはその後非常に助けられたが、
それだけでなく、再開初日の朝からこうして地元の人とお話ができることがとても幸せに感じた。



まずは52番札所太山寺へ、ポンジュースの大きな看板を横目に歩く。
そして、そのすぐ先に53番円明寺。

お寺では、今回からお参りの際に般若心経を唱えることにした。
これまでは、別に仏教徒としての遍路じゃなくて単に歩きたいだけだったから省いていたのだった。
でも歩いているうちに、様々な縁を感じ、面白い経験をし、
そして毎日お寺に接することから自然と仏教への関心も芽生えてきたりした。

せっかく滅多に出来ないお遍路やってるわけだ。
お経を唱えてみて、もし般若心経がそらんじられるようになったらそれはそれで恰好いいなと。

というわけで、お遍路終盤にしてはぎこちない唱和ではあるが、気分を新たにお参りをする。



お昼時、円明寺近くの小さな食堂に入った。
近所の会社の社員に混じって、日替わり定食500円を注文。

彼らからの視線は感じるけど、おそらくこれもまた、この辺の日常風景。

そしてやはりどうしても思うのは、世間では休みでもなんでもなく、あくまで平日だということ。
僕は会社に行かずお遍路をしているけど、この人達は働いているということ。

でも、それに対して以前ほどは罪悪感みたいなものは感じなくなっていた。
これはこれ、それはそれという気持ちにはなれているのかな。

お店ではおそらくお接待で、食後のコーヒーを頂いた。
ほてった身体にアイスコーヒーがしみる。



ここからは、海沿いに延びる道を北上する。
海の見える道は本当に気持ちいい。笑顔で歩けているのが自分でも分かった。

他の歩き遍路とは全く会わなかったけど、
(そもそもこれから梅雨になるというこの時期に歩き遍路はいるのか?)
地元の人とよく喋っていたこともあって、全然退屈はしなかった。



北条港、海の傍に温泉を見つけた。時刻は16時。
今日の野宿場所として目星をつけている道の駅ももうすぐそこなので、ここで温泉に入る。

オーシャンビューの露天風呂。最高。
夕方手前の時間帯の温泉もいいもんだな。

1日の疲れを癒やしてから、近所のスーパーで夕飯を買い、道の駅Fへ。
ちょうど閉館準備をしているところだった。

スタッフの人にテント設営の許可をもらう。
ベンチで夕飯を食べていると、その人から柏餅をお接待してもらった。

子供が福井にいま住んでいるということで、親近感をもっていただいたらしい。
ありがたいなぁ、こうして夕方も話しかけてもらえる。



サンダルで砂浜に行く。海に映る夕日を見れるのはここが最後だろうか。
明日からは、進路は北東になり、そのまま瀬戸内海を左手に、東へ進むことになる。

今日一日を振返ると、やっぱり、旅に出ると気持ちが落ち着くなぁとつくづく思う。
一昨日までの不眠や不安が嘘のようだ。

歩けばいいだけだし、お遍路の恰好をしていると色んな人と喋れる。
歩いた分だけ夜もしっかり眠たくなる。

今日の歩行距離は25km。MAXの日の半分。
だけど、たくさんお喋りできたし、温泉は気持ちよかったし、疲労困憊じゃないし、
最適なペースだと思えた。



明日ものんびり進もう。

24日目(2)


スポンサーサイト

煩悩遍路E日目「3度目のスタート」―菩提の道場―

2回目の区切り遍路を終えて2週間が経った。
まだまだ復職できる状況ではないという判断を医師・会社からともに受け、
休職期間は延長となった。
要するに「焦るな」と。

実は、遍路から日常に帰ると急に調子が悪くなっていた。
当然疲れが出ているというのはあるとは思うけど、
なかなか夜寝つかなかったり、家でゴロゴロしていて気分がふさがったり。

でも、こうしてまた休職期間が延びたことで、お遍路再開の目処がたった。
家で一人過ごしていてもしょうがない、また四国へ行こう、残りを歩ききろうと決心した。



今回の再々スタートにあたって、また装備の見直しをした。

まずはレインウェア。
撥水機能がガタ落ちだったので、最後の望みを託して、洗濯と撥水スプレーとアイロンがけ。
これで撥水が回復するはず…。

続いてテントの下に引くブルーシート。
地面に直にテントを敷くと汚れたり湿ったりするから、一枚テントサイズに切ったブルーシートを敷くと随分違うよと野宿仲間から教えてもらっていたのだ。

ブルーシートを追加する代わりに、テントの外側の部分であるフライシートは持っていかないことにした。季節はもう夏。二重構造だと夜は蒸し暑いだろうという判断。

その他、電池式虫除け、粉末タイプのスポーツドリンク、顔拭きのウェットティッシュなども用意した。

区切り打ちは、こうして毎度装備の見直しができるのはメリットだなと思う。



7月4日(月)、電車とバスを乗り継ぎ、愛媛は松山へと向かう。
前回の遍路最終日に連泊したゲストハウスFに再訪。
女性のスタッフさんが覚えてくれていた。嬉しい。

2周間前くらいに、僕の出発とほぼ入れ違いに入ったという、新しい男性スタッフさんがいた。
僕と同い年。その割に年上の風格がある…と思ったら、
何年もアジア放浪の旅やそこでの暮らしを経験してきたとのこと。
数年前に歩き遍路をして、その時この宿に泊まって、お遍路を止めたという。
オーナーが前に言っていた、この宿の「へんろ殺し」で遍路をやめて、
今度スタッフになる人がいるよ、というのは彼のことだったようだ。

彼はスタッフになってから、知り合いのバーを昼に間借りして、インドカレー屋を始めたとのこと。
なんというか、バイタリティと実現へのスピードが突き抜けててすごい。
でも、すごく自然体な佇まいで、無理しているような感じはなかった。

彼と色々話をしていたが、面白かったのは、
「スタッフ側からするとゲストハウスはガチャポンだ」という話。
たまに超おもしろい人が来て勉強になる…と。
でも、それはその人ならではのことで、そのまま真似するもんでもないよね、とも。
たしかに。

あとは、あれこれ考えるよりも行動したほうが早いしなんとかなる。
或いは考えてなかったことが起きるから、事前に考えて悩む必要が無い。って。

彼が言うと説得力あるんだよなー。
考えるよりもまず行動。



その晩は、僕以外に、会社の営業の出張で松山に来ている女性が泊まっていた。
聞いたところによると、本当は図書館の司書をやりたかったらしいが、色々あって今の仕事をがんばってやっていると。

業績アップすると、いわゆるインセンティブとして、その社員にはグアム旅行が会社からプレゼントされるらしい。
彼女曰く、スカして反発するよりも、会社方針に乗っかって業績アップに向けて頑張ったほうが
旅行もできるし、仕事への気持ちも入るし、トータルで考えると良いことが多いと。

これもまた真だよな。
「転職とか考えないんですか?」というレベルの低い質問をしたのが恥ずかしくなってきた。

結局は気の持ちようということか。



今晩はオーナーさんは登場しなかった。
共同スペースでの歓談はひっそりと幕を閉じ、寝床に入る。

明日から再開するお遍路、残る距離は300kmちょっと。あっという間に終わるかもしれないな。
余計なことは考えず、ゆったり歩こう。

E日目


煩悩遍路D日目「日記」―菩提の道場―

D日目

6月18日(土)

朝8時起床。
全身が筋肉痛。緊張感が途切れたからかもしれないな。
会社員の彼は休日返上で仕事へ向かっていった。いつかお遍路へぜひ。

荷物を整理する。心の整理はまだできてないけど…。

帰る日常があるからこそ「旅」がある。
悪い意味での旅慣れはしたくない、そんなことをリクくんと話していた。

でも、日常に戻りたくないなー。
今回は「結願」という外的ゴールが無い分、心の整理がしにくい。

全部回りきることにこだわるのが悟りとは対極なんだよという昨日のオーナーの言葉が頭をよぎる。心を休ませるはずが、ただ距離を稼ぐことばかり考えるようになってしまった自分の気持ちを一旦区切るため、今回は帰るのだ。


宿を去る。
リクくん、今度こそ、もう2度と会うことはないだろうけど、楽しかった、ありがとう。
ヒッチハイクでの結願、うまくいくといいね。


昼までの時間、ゲストハウス用に道後温泉の絵を描く。
やっぱり現地でのスケッチはいい。暑い日差しが足を焼く。

「道後の町屋」カフェにてコーヒーと昼ごはん。コーヒーの絵を描くなんてオシャレなこともしてみた。小さなスケッチブック、ボールペン、灰色のコピック。これ、いい。
そして、絵を描いていて幸せに感じる自分が嬉しい。


この旅で、たくさんのお接待や人のあたたかみをもらった。
地元の人から。遍路仲間から。

このお礼はこれから出会う人たちにつなげていきたい。
他人への感謝の気持ちの連鎖で世界はきっと良くなる。


そして、もっと人と関わっていこう。ハードルを下げて、気楽に話しかけてみよう。
人と人との関わりが、出会いが、面白いことに発展していくはず。

自己完結しがちな自分が、一番変わった、変わりたい部分はここかもしれない。

───

日和佐から松山まで、18日間におよぶ2回目の区切り遍路を終え、
僕は四国を去った。


煩悩遍路C日目「煩悩即菩提」―菩提の道場―

松山での朝。今日一日ここでゆっくり過ごして、明日の昼に帰るのだ。

急ぎ起きて6時から歩かなくていい幸せ。
ベッドでゴロゴロとくつろぐ。

ゆったりと流れる時間を求めてお遍路をしていたはずなのに、
気づけば30km、40km、50km歩かなくては、と躍起になり、
その為には朝早くから夕方遅くまで……と自分を追い込んでいってしまっていた。
より速く、より遠く…これが「煩悩」なのだろう。

愛媛=菩提の道場にて、この呪縛から逃れられるかどうかが
四国遍路というもののミソなのかもしれない。
まあ、僕はここで一旦区切るんだけどね。

一階に降りるとオーナーがいた。
今晩お好み焼きパーティーをするらしく、参加することに。楽しみだ。

「この宿、一泊2,000円でやってけるんですか?」
「いい質問だね」
答えてはくれなかった。まあ、そういうことなのだろう。



午前中はリクくんと近所の文房具屋へ行く。
彼の今後のヒッチハイク用のスケッチブックとペンを買うのだ。

僕は僕で探しものをしていた。
ポストカードサイズの画用紙と、コピック。

絵を描きたいと思うようになっていた。
描いて、お世話になった人たちに送りたい。

鬱になってしまった4月には消え失せてしまっていた絵を描きたいという願望が
ここにきて復活していることに我ながら驚く。
そして、すごく嬉しかった。

そのお店には目当ての商品が無かったので、
宿のスタッフさんから教えてもらっていた別の大きな画材屋さんに行ってみることにした。
遠いので、レンタサイクルをする。ついでに温泉にも寄ってみよう。



道後温泉駅の近くで自転車をレンタルし、まずは大街道へ。
画材屋に行くと…ありました!画用紙、コピック。

早速描いてみる。
道後温泉の本館の絵を描いた。ひさしぶりなのでうまくペンが走らないけどまあいい。
描くこと自体が楽しい、それが一番。

近くで売っていた地ビールを描い、絵を添えてシロさんちに送った。
お世話になりました、と。泊まらせてもらったわけだしね。

続いて石手寺に行き、境内のスケッチをした。これは縁があったリクくんにプレゼントする用。
裏に「縁に感謝」かなんかの思い返すと恥ずかしいメッセージを書き込む。旅の恥は掻き捨て。


ひととおり予定してたことが終わったので、温泉へ。
49番浄土寺の近くまで戻るけど、そのそばに「たかの子温泉」がある。
ここ、実はお遍路0日目の宿で会った通し打ちのおばちゃんから勧めてもらっていた温泉。

その人は、ずっと足が痛くて引きずりならが歩いてたけど
ここの温泉に入ったらすっかり良くなったと言っていた。

というわけで気になってた温泉、まあきれいな施設だし広々してるし、いい温泉だった。
道後から少し遠いのが難点だけどそのぶん希少価値はあるような感じ。
少なくとも道後温泉のよ特徴のない泉質よりは温泉感はあるので、オススメ。



夕方、気持ちよく自転車でぶらぶら帰っていたら、繁多寺付近で見覚えのあるお遍路の後ろ姿が…

……!
あの土佐久礼で出会った!超高速マルさんではないか!

もうここまで来てたのか(笑)速い…
ぼくの足摺の車ワープ分をもう追いついたってことだよなぁ。

思わず声をかけた。先方も驚いてたけど、それは僕が自転車に乗っていたから。

「あれ?なんで自転車乗ってんの(笑)」
「松山で打ち止めにしたんですよ、今日は宿に連泊してて休養日なんでブラブラしてました」
「えー区切っちゃうの!」

マルさんは道後よりも少し先のビジネスホテルに予約を入れているようだ。
リクくんにも会わせたいし、夜にどっかで待ち合わせしましょうと、連絡先を交換した。

ここでもまた、不思議なご縁があったようだ。



宿に戻ったら、リクくんがいなかったので電話してみた。じきに宿に戻るとのこと。
帰ってきたリクくんに、早速マルさんに会ったとの報告をした。
当然笑っていた。

そして、石手寺で描いたスケッチを渡す。
「こんな才能が…(笑)」「大切にします!」と喜んでくれて、嬉しかった。
これまた押し付けがましい感じもしたけど、せっかくの縁だったから。
気持ちのお接待ということで。

自己完結ではなく、誰かのために描くという絵もまた、いいもんだなぁと思った。



宴会がはじまった。レッツお好み焼きパーティ。

オーナーに、道中出会ったお遍路仲間と会うのでその時少し抜けます、と伝えると、
その人も連れてくるといいよ、と言ってくれた。
その手があったか!というかオーナーさん優しい。肩の力が抜けてる。

つってもなかなかマルさんは来ないし、メールも返ってこなかったりして、
誘った自分としてはちょっとじれったく思うところもあったけど、
なんとか1時間かそこら経ったところで到着。
温泉に行ってから連絡とれなかったんだって。ああそうか。

ビールと高級(だが安売りしてたという)肉を手土産に。
なんか、土佐久礼の時から、もらってばっかりだな。申し訳ない。

そしてさらにその後、出張で来たという同年代のサラリーマンの男性も加わった。



話題はまず、お遍路について。

オーナーはその明るくフレンドリーなキャラクターに加え、話が上手かった。
お遍路さんが多く泊まることもあって、遍路に関する知識やネタが尋常じゃなく豊富。

職業遍路から教えてもらったという句を教えてくれたり、
職業遍路に宿のタオルをよく採られるという体験談を語ったり。

このゲストハウスは「遍路ころがし」ならぬ「遍路ごろし」という。
なぜなら、この宿でリタイアしてしまうお遍路が多いからだそうだ。

何を隠そう、僕もここで最後だしな…って、ぼくは宿に来る前からここで終えると決めてましたし?

ここの居心地の良さ、オーナーやスタッフの「あるがまま」な生き方にほぐされて、
お遍路すべてを回りきる!というピンと張った糸が切れてしまうのかもしれない。

或いは、遍路を止める理由を探している者が、その理由をここで見つけてしまうのかもしれない。

「お遍路は悟りを目指す旅だけど」
「全部回る!というのが悟りの境地から一番遠いんだよね」
「だから途中で悟るとお遍路をやめちゃうの」

オーナーはそう言う。

たしかにそうだ。

88箇所回るという目的を達成したいという「欲」を満たすということ自体が、
遍路によって悟りをひらくということと相矛盾する。
でも、そうするとお遍路という存在って一体…(苦笑)。


あとで聞く所によると、これは「煩悩即菩提」という概念らしい。

煩悩の概念そのものがなければ、相対的な悟りの概念もない。
煩悩を離れて菩提は得られないし、また逆に、菩提なくして煩悩から離れることはない。
色即是空、空即是色。

生きている以上、人から欲が無くなることはない。
物事に執着する(煩悩)=88ヶ所すべて回りきるというのが悟りの対極にはあるけれど、
その88ヶ所回りきるという欲や煩悩があってこそ、その先に菩提があるということだ。

そうすると、僕らがこうしてコンプリート目指して歩いているのも意味はある、と思えるよな。



だんだんお酒がまわってきた。

マルさんとオーナーはおそらく同年代っぽく、すっかり意気投合したようだ。
連れてきて良かったなと。

マルさんはお遍路2回目だと思ってたけど、じつは3回目だということが判明!
「全然悟れてないじゃないですか!!!!」と大声で煽ってしまった(笑)

彼は彼で
「いま足の調子がとても良いから、このペースなら20日で88ヶ所回りきる自信がある」
とかめちゃくちゃなことを言っていて面白かった。
そして必然的に
「君も最後まで行けばいいじゃん、次の病院の日までに絶対結願できるよ」
と煽ってくる。いやー…、それはそうなんですけどね(笑)

近くにピンク街がある関係で、少しエロい方向の話題も出た。
その都度オーナーが「不邪淫ですよ!」とツッコミ入れてくるのはもう笑う。
お遍路ならでは感。それがいい。
※不邪淫:十善戒のひとつ



夜も更け、宴会はお開き。終電を逃したマルさんは、歩いてホテルまで帰ることに。
僕とリクくんとで表の道路まで見送りに行った。

何を喋ったからは覚えてないけど、お互いの旅の無事と健闘を祈って、
握手して別れた。

速いペースで小さくなっていく彼の背中を見る。
もう会うことは、本当に、ない。



宿に戻り、数人を残して語り合いを続けた。

出張中のサラリーマンは、島巡りが好きらしい。
まあ、出張でこういうゲストハウスに泊まるくらいだから旅好きなのは当たり前か。

仕事との向き合い方、将来のこと、今後の身の振り方…。
同年代ということもあってか、僕と同じような悩みをもっていた。

酒+夜+非日常な空間。こういう場で知らない者同士で語られる本音トークは好きだ。


この充実した時間。
明日、お遍路をやめて帰るのが信じられない。
この空間にいつまでも居続けたい、旅をし続けたい。

でも僕はここで一旦区切るのだ。染み付いた煩悩を一度断ち切るためにも…。
でも帰りたくない…

もし7月も続けて休職するのなら…ここにもう一度泊まって、ここから再スタートしよう。
そう言い聞かせる。



本当に楽しい宴会だった。
旅の最後の日にふさわしい、夜。
ありがとう、みんな。ありがとう、ゲストハウスF。

C日目


煩悩遍路23日目「最終日、そして、縁あって…」―菩提の道場―

23日目

雨の最終日。

久万高原町の中心部へ国道を下ってゆく。
足は痛いし気力も無く、天気も天気なので、ここから三坂峠まではバスを利用することにした。
十数キロ、3時間くらいのワープ。

峠からは、46番浄瑠璃寺まで、ぬかるんだ下りの山道をしばらく歩く。
眼下遠くに見えるのは…松山だ。
四国ナンバーワンの都会。人気のない道を含めずっと歩いていると「都会」の特異性がよく分かる。



11時前に46番浄瑠璃寺に到着。なんか植物にあふれたお寺だった。

ここからは47番八坂寺、48番西林寺、49番浄土寺、50番繁多寺、51番石手寺と、
15km以内にお寺が密集している。
お寺の密集具合からも分かる都会らしさ。

石手寺で一旦打ち止めとなる。そこまでがんばって歩こう。



雨の日であったが、今日も沢山の出会いがあった。



まずは、昼過ぎ、空腹で辿り着いた西林寺近くのうどん屋さんにて。
食べ終わったあとお店を出ると地元のおばちゃん達が並んでいた。
軒下でそそくさとレインウェアを着ていると話しかけてきてくれた。

雨の中よう歩くね~みたいな話だったと記憶してるけど、一番心に残ってるのはこの言葉。
「旅の目的はなに?」
う~ん、目的は…何だろう。歩いてみたかった?色んな人に会いたかった?鬱の治療?
うまく答えられなかったけど、こうした優しい会話は心があたたまる。

この質問は、この場所以降、特に香川でのちのち頻繁に聞かれることとなる。



一方、とあるお寺ではバスツアー遍路のおばちゃんが狙い定めて話しかけてきた。
「わたしは10年前20kg背負って歩いたの」
「お兄さんの荷物小さそうだけど野宿はしてないのかな?(笑)」

…うっさいわ!(笑)
なんやねんその嫌味っぽい言い方。野宿してますがな。
昔と違ってコンパクトに収納できるんだよーだ。

と、反論したかったけど言ったところで意味ないので、軽く愛想よく会話して退散した。



石手寺の手前では、下校中の小学生集団と挨拶をした。
ちょっと道に迷ってたので話しかけてみた。

「石手寺に行きたいんだけど、どっちに行けばいい?」
「この道をずっと行けばあるよ!」
「ありがとう!」
「お兄ちゃんはどこから来たの?」
「石川県だよ!…あ、歩いてきたのは徳島県からだけど(笑)」

みんなちょっとざわついていた。

「君たちもいつか…ぜひ歩き遍路してみてね…!」
そう言って、彼らとは別れた。

雨の中びしょ濡れになりながら、遠いところから歩いて来たという大人を見て何を思っただろうか。
ただ歩くためだけに、自分の住む町に全国全世界から多様な人が来る。それがここの日常。
四国という土地は本当に面白いなと、改めて思った。



最後に辿り着いた51番石手寺は、デカかった。
実はこのお寺に来るのは3回目。
道後温泉から歩いてすぐ来れるので、興味あって寄ったことがあったのだ。
でも、今回歩き遍路として他の札所を見た上でこのお寺に来ると、
その異様さと規模の大きさがよく分かった。

何が異様かは、是非自身の目で確かめていただきたい。面白いので是非。



時刻は17時。
目標としていた石手寺をクリアしたので、あとは宿へ行くだけ。
昨日の朝に予約したゲストハウスF。道後温泉駅から目と鼻の先にある超好立地。でも格安。
どんなゲストハウスだろう。

玄関を開けると、オーナーではなく若いスタッフの男性が応対してくれた。
入ってすぐ、その居心地の良さが感じられた。入ってすぐに共同スペース。ごろ寝できそう。

すぐに連泊が可能かどうかを尋ねてみた。OKとの返事。よかった!
6月は閑散期のようだ。
明日は1日のんびりできる。

スタッフが尋ねてきた。
「お遍路ですよね」
「そうです、でも松山で区切って一度家へ帰ろうと思ってて」

「ドミトリーには一人数日間連泊してる歩き遍路の子がいるよ」
「へー誰だろう」


簡素な宿帳に住所氏名を記入しているとき…何行か上に見覚えのある名前が記入されていた。
……えっ、リクくんじゃないか!
えっまさかこの宿に泊まってたの????
…と思ってたちょうどそのタイミングで、玄関の扉が開いた。

リクくんがいた。「え?」
彼もまた、自分以上に驚いていた。

まさか、ここで再会するとは!!

2人とも笑い転げていた。
まさか、まさか!ここで?(笑)



高知県に入ったばかりのお寺Mの通夜堂、青龍寺近くの国民宿舎T、七子峠、その他の道中…
しばしば出会って、寝食を共にし、同じ数だけ別れてきた。

一週間前、岩本寺まで一緒に歩いたあと、
リクくんは足のマメの診療のために病院へ行くと言って電車で先に進んでしまったし、
僕は僕で、足摺岬をイレギュラーに車で往復したし。

そんな、お互いバラバラに歩いてたはずなのに、
最後の最後でこんな離れたところで会うとは。

そもそも、最初に宿泊しようと考えていたSゲストハウスが臨時休業じゃなくて、
もしそちらに泊まっていたら、会うことは無かったわけだよな。



「縁のある人とは3度会う、と道中で地元のおじさんに言われたんですよ。
ほんとにこれは縁ですね!」と彼。
そうだなぁ、縁だなぁ。

旅の最後の弘法大師さんのサプライズと本気で思った。
お遍路は、おもしろいな……。



再会を喜んだあと、僕はとりあえず温泉と夕飯を食べに外出した。

「松山に着きました、ゲストハウスで連泊してここで一旦区切ろうと思います」と
シロさんにメールをしたら、すぐに電話がかかってきた。

「松山までよく歩いたね。おめでとう」
「お遍路再開したら教えて。また会いたいね」と。

気にかけてくれているのがとても嬉しかった。



相変わらず混んでいる道後温泉にて疲れを癒やし、
アーケード内のお店でカツ丼を食べた。満足。この旅でカツ丼は何度目だろう。
身体がタンパク質を欲しがっている。



コンビニでポテチを買って、宿のスタッフとリクくんと一緒に食べた。
スタッフからは、自作のプリンをご馳走してもらった。びっくりするくらい美味しかった。

宿に戻ってから寝るまで、リクくんとの話は絶えなかった。
つもりにつもった話をした。
誰に会って、どんな体験をして、どのルートを辿って、いかに感じたか…。



メモ帳に書き記しているものを列挙する。



遍路玄人は情報をたくさん持っているが、面倒くさい。
初めてか2回目の歩き遍路は、新鮮な出会いをお互い求め、楽しめてる印象。

歩き遍路の醍醐味は「出会い」。

2回目の遍路をする可能性はあるか?という話題。
普段の生活で、新鮮な出会いに飢えたら、2回目も来るかも。…と言いつつ、
同じ旅を2度することは無いようにも思う。前回の旅をなぞるだけになるかもしれないし。
番外札所も含めるならアリかも。もしくはスペインのサンティアゴ巡礼か。

60代の会社リタイア後に歩き遍路している人はよく見るけど、
僕らは40年分先にこの経験をしている。
これは今後、自分たちの強みになる。直接ではなくとも、きっと何かに活かせる。



リクくんの足のマメの様子を見せてもらった。
全然治ってないどころか、更に悪化しているようだった。一応薬は飲んでいるようだけど。
この宿にも数日滞在し、足を休めているらしい。

歩くのではなくて、ヒッチハイク遍路に切り替える、みたいな話になり、
明日、近所の文房具屋さんにスケッチブックを買いに行ってみることにした。

ぼくも買いたい画材があったし。



6月1日に再開した2回目の区切り遍路。16日かけて松山まで辿り着いた。
この旅も、ここで、今夜終わりとなる。

その最後に用意されていた嬉しいサプライズに感謝しつつ、
お遍路のことのみならず、これからの人生についてもとりとめもなく話し込んだ、良い夜だった。

明日はもう歩かなくていい。
布団の気持ちよさを噛み締めながら、日付が変わるころ、眠りにおちた。


23日目(2)


GO TOP