煩悩遍路2日目「若さ」―発心の道場―

早朝6時ごろ起床。

体の節々が痛い。日頃の運動不足がたたる。
特に、ザックの腰ベルトが左右の腰骨に当たっている部分が、皮膚ズレみたいになってる。
幸い、足については歩くのに支障をきたす痛みはなかった。

一夜をともにした青年は30代だった。
明るい空の下、精悍な顔つきに、どこか浮世離れしたような、
遠くを見るような目つきが印象的だった。
お遍路を回り切ると、色々と達観できるようになるのだろうか。



さて、今日はゆったりペースで歩くことにする。
明後日の12番焼山寺への山登り「へんろころがし」に備えて体力温存である。
目標は山麓の11番藤井寺。たった十数キロ道のりである。

天気は快晴。田んぼの横を歩き、登校中の小学生・中学生と挨拶を交わす。
こんな怪しい恰好をした見知らぬ人にも爽やかに挨拶をしてくれる。
不思議な土地だ。



10番切幡寺は小高い丘の上にあり、階段が若干しんどい。
登り切って小休止していると、白髪のおじさんに話しかけられた。
Yシャツにジャケット、革靴というフォーマルな恰好。ここらのお寺では逆に目立つ。
ここではノリさんと呼ぼう。

ノリさんは関東在住の60代男性。定年後は登山を含めよく旅行をしているそうだ。
今回も、たしか88番大窪寺から1番霊山寺まで行く途中だと言っていた。
革靴で歩いてるというのだから驚きである。「全然歩き遍路だと思われない」と笑っていた。

最初は当たり障りの無い会話をしていたが、お互い気の合う部分があり、次第に打ち解けていく。
すっごく気さくで優しい人である。話していて楽しかった。

鬱で休職してることを話すと、ノリさんは気を遣ってくれたのか、色々と話してくれた。

人生には3回くらい転機がある。もしかしたら君は今がその時かもしれない。
長い目で人生や世の中の動きを見てみよう。
26歳はまだ若い。まだまだなんでも出来る。
一期一会を大切に。

時代は変わる。お寺は変わらない。
変わるもの、変わらないもの…。

1時間ほど話しただろうか。
別れ際に連絡先を教えてもらった。
「いつでも相談に乗りますよ。またお会いしましょう」
握手を交わす。キュンとした。絶対あとでメールしよう。



雄大な吉野川を横断する。

道中、昨日抜きつ抜かれつしたおじさんとペースが合い、少し一緒に歩いたのだが、
そのおじさんからも、26歳なんて若くて羨ましいよ~と言われた。

それにしても、昨夜の逆打ちの青年以来、若い歩き遍路に全然会わない。



今夜は善根宿に泊まる。
善根宿とは、地元の人が善意で歩き遍路に無償或いは格安で宿泊させてくれる場所である。
それはガレージだったり、廃バスであったり、掘っ立て小屋だったりする。
場所によってはシャワーを貸してくれるところもある。

ぼくが泊まったのは、町営の温泉に併設されている有名な善根宿だ。
なんと洗濯機までついている(洗濯代は必要)。

案の定早い時間についたので、温泉に入り、洗濯をし、のんびり日が暮れるのを待っていた。
頭のなかで昼間の会話を反芻する。
「26歳はまだ若い。まだまだなんでも出来る」

そうだろうか。

ぼくは大学院まで行ったからまだ2年しか働いていないけど、
学部卒の場合は4年、高卒だと8年働いている年齢である。中堅の部類にも入ってくる。
30歳も近くなり、そろそろ自分の人生の方向性を定めていかなければならないのではないか。

そんな大事な時期に鬱になってプータローしてる自分が情けなかったし、
そもそも鬱のため無気力で、自分が何になりたいか、何がしたいのか分からなくなっていた。


ひとり悶々と悩んでいたところへ、夕方、40代くらいのおっちゃんが宿に転がり込んできた。
疲れきって歩いていたら地元の人にここを紹介され、車で連れて来てもらったそうだ。

話し相手ができた。ちょっとぽっちゃりした人だった。
ダイエット目的でお試し歩きしてるらしい。別にそのままでもいいように思った。
ここではタカさんと呼ぶ。

ぼくはタカさんに若さについて相談をした。
返事は意外なものだった。

「俺は、30歳までに自分の適職を見つけようと思っていた。
はじめ20歳で就職した会社は結構大きな会社だったんだけど、2年で辞めて、
その後は2年おきに仕事を変えたんだよ。そして最終的に行き着いたのが今の仕事だ」

「リスクをとらないと何も得られない。でも、目的があればそのリスクはリスクにならない」

「26歳はもう若くない。行動するなら早くしたほうがいいと思うよ。
ただ、“こうでないといけない”と他人のレールを以って自分を束縛することはない。
例えば30歳までに...というのは俺が勝手に決めたことだから」

「君が納得のいくスタイルで20代後半を大切に過ごせたらいいね」


ぼくは甘えていたのかもしれない。26歳は若いよと言われ、そんなことないですよ~と返答する。
そんな何ら具体性のない会話に癒やしを求め、まだのんびりしていたいと思っていたのかもしれない。

タカさんはそんなぼくを見抜いていたんだろう。


その夜は冷えた。
善根宿は入り口に隙間があり、寝袋に入っていても寒さで目が覚めた。
身体を温めるには、あまりに心の炎は弱かった。

2日目 

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コメント

通りすがり #-

読んでるよ。最後まで頑張ってくれ!

2016年07月29日(金) 18時45分 | URL | 編集

ちかひら(管理人) #-

> 通りすがりさん

ありがとう!

記憶とメモを頼りにがんばって書くわー!

2016年07月30日(土) 10時09分 | URL | 編集


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