煩悩遍路5日目「その人の旅となる」―発心の道場―

お寺の朝は早い。
若いイケメンお坊さんが本堂に入り、諸々の準備を始めた。

通夜堂を借りたときは「来た時よりも美しく」「7時までには出発」が鉄則。
そそくさと荷物をまとめ、箒ではわく。
お坊さんにお礼をし、本堂に向かって合掌してから、今日の歩きをスタートした。

実は昨日は下り坂が多かったこともあり、右足の裏にマメができてしまっていたが、
夜のうちに処置(水を抜いて消毒し、絆創膏を貼る)しておいておかげで
今日は順調に歩くことが出来た。

他の歩き遍路の人のなかには、2日目くらいにはもうマメができてしまって大変だった
とかいう人もいたので、ぼくは良い靴(と中敷き)にめぐりあえて良かったなぁと思った。
登山用品店の店員さんに感謝である。



さて、今日のスケジュールだが、
18番恩山寺、19番立江寺と打って、20番鶴林寺の先か手前まで進もうと考えていた。
恩山寺までには徳島市内を通るルートと眉山の西側の地蔵院を越えるルートと2つあったが、
市内を歩くのはあまりおもしろくなさそうだったので地蔵越ルートを選んだ。

近くに学校があるのか、児童からの「おはようございます!」のオンパレード。
お遍路さんに会ったら挨拶しましょう、と教えられているのだろう。

今日もお接待を頂いた。
お寺にて、おばあちゃんからオロナミンC、饅頭(大量に)、飴。
遍路道沿いの家から出てきたおばちゃんから、手作りのティッシュカバー。

相変わらず歩き遍路にはあまり会わない(逆打ち遍路とは数人すれ違った)が、
こうした地元の人との触れ合いで心がほぐされていく。
遍路5日目にして、体力が付いてきて調子がいいのも関係しているのかも。



「人生即遍路」
お遍路をしているとよく目にする言葉だ。
ひとり歩いていると、なんとなく、その意味するところが分かるような気がする。

「旧道を復元した気持ちのいい道です」「近道です」といった甘い誘惑につられて
看板の示す方へ進んでみると実際はひどい山道で、大変な目にあったり、
上り道もあれば下り道もあったり、案外上り道の方が楽チンだったり、
ルートや行動手段は人それぞれだったり、
お寺が離れていると単調だったり、逆に密集しているとお参りや納経で忙しかったり、
ひとりで歩いているんだけど、キツくなったタイミングで誰かが声をかけてくれて
物心両面で助かって、ひとりなのにひとりじゃないと感じたり。

そんなことを考えながら、県道をずっと歩いていた。



けっこういいペースで歩いたと思うが、時間的に20番鶴林寺は無理だ(山の上にあるから)と
判断し、手前の道の駅Hにて今日は歩き終えることにした。
9~10時間歩いて、これまでで最長の30数キロ!
ちょっと嬉しかった。



この道の駅の駐車場の隅に、遍路小屋がある。
ここに先客の歩き遍路が2人いたので声をかけてみた。

一人は番外霊場20箇所も廻っているというお遍路3回目のおじいさん(トシさんと呼ぼう)。
もう一人は初めてのお遍路で逆打ちをしているという定年退職したてのおじさん(ヒロさんと呼ぼう)。

トシさん
「はじめてお遍路したときは、乗り物に絶対乗らない&一人で歩く!と頑なだったけど、
2回目、3回目では電車も乗るし、車のお接待も受けられるように気持ちが変わったから
楽になったわ。結局、自分で自分をしばってるにすぎんわけよ」

ヒロさん
「野宿メインで歩いてるけど、テントは持ってないから民宿や善根宿にもよく泊まるよ。
旅の情報(特に野宿場所)は予めネットでしっかり調べて地図に書き込んできたし、
全日程のスケジュールも大体立ててから来たんだよ。
もちろんその通りには進んでないけどね(笑)」

ヒロさんには大いに親近感を覚えた。
それまで、野宿する=行き当たりばったり、という印象がずっとあって、
ぼくはどちらかと言うと先々のことを考えて野宿をしていたので
本格的な野宿野郎にはなりきれないと思っていたんだ。

でも、ぼく以外にもヒロさんみたいな「きっちりとした野宿組」もいるんだなって。



ここにきてようやくぼくは気付いた。
旅の中身は人によって違うという当たり前のこと。

野宿歩き遍路旅といっても色んなタイプがあるのだ。

全てテント泊で、自分の力だけで貫く人もいれば、
テント無しで、安宿や善根宿、通夜堂を利用する人もいる。

行き当たりばったりノープランな人もいれば、
しっかりプランを立てる人もいる。

やっているのは「野宿旅」じゃない。「その人の旅」なんだ。

ぼくは、ぼくなりの旅をすればいい。
旅に理想形なんて無いのだ。



その日は、ぼくとトシさんは道の駅の建物の裏、屋根の下にテントを張り、
ヒロさんはふきっさらしの遍路小屋に置いてあった毛布をかぶって寝ることになった。

日暮れ時、買ってきたコンビニ弁当と道の駅のトマトをほおばる。
沈む夕日を見てヒロさんはつぶやいた。
「贅沢な瞬間だよね」


心が満たされること。
満たしてくれる要素は人それぞれだろうけど、
その積み重ねが、「その人の旅」を作り上げていく…。

5日目

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