煩悩遍路B日目「修行の道場を前にして」―発心の道場―

B日目

あれから1週間が経った。
ぼくは再び徳島の地に戻ってきていた。
お遍路、再開である。




遡ること1週間、徳島一国参りを終え帰省したぼくは、
健康的に日焼けし、しっかり喋れ、表情を作れるようになっていた。
そんなぼくを見て、両親も少し安心したようだった。
しばらくは実家で疲れた身体を休めよう。

ん?…歩きたいぞ。歩きたい!!!
身体が疼く。
飽きたと思っていたお遍路も、いやはや、離れてみれば翌日からまたやりたくなっていた。

実家附近の旧道を1時間くらい歩いてごまかしてみたりしたけど、
それでもお遍路熱はつのるばかり。



数日後、実家から下宿先に戻り、病院へ行った。
医者からは、苦にならないのであればお遍路もOK、ただし無理しすぎないように、とのことだった。
そんなら、と、翌日から早速四国へと向かうことにした。

前回の区切りで不要と思ったものは荷物から外し、必要と思ったものは追加。
ザックへのパッキングの仕方も変更してみた。



5月31日。いざ、四国へ向かう。
さーて出掛けるか、と思ったとき、帽子が無いことに気付いた。

たしかに持って帰ったはずだ。部屋の中に無いはずはない。
座布団の下、物置の中、ザックの中、探したけど出て来ない。
電車の発車時間は迫っている。やむを得ず、帽子無しで出発した。
帽子のあるなしでは体力の消耗に大きな差が出てしまう…が、仕方ない。

このことが、のちにぼくの煩悩を増やすきっかけになるとは知る由もなかった―。



大阪までは電車で行き、そこからバスに乗り換え、
前回のお遍路の終了地点である日和佐まで向かう。
大阪での待ち時間に、近くのアウトドアショップをウロウロしていたら
若い男性の店員さんに声をかけられた。

「わ、お遍路ですか?」
「そうです、区切りですけど、明日から再出発でして」
「私も数年前に通しでお遍路、行きましたよ~云々」

(中略)

「お遍路してるとぎょうさんお接待もらいますよね~」
「ですよね~、ぼくも果物とか飴とか大量にもらったりして、嬉しいんだけど重かったりして」
「思いは重いですよねェ」
「・・・。お兄さんオモロイこと言いますね~さすが関西人ですわ」
「・・・えーとお客さん、何か買い足しときたいものないですか、アンダーウェアとか」
「大丈夫です」

とまあ、大阪のどまんなかで大きなザックと金剛杖を持ってウロチョロしてると超恥ずかしいが、
こうした良い出会いもあって、なかなかどうして、人生何が起こるかわからないのである。



バスに揺られ、夕方にようやく徳島・日和佐に到着。
ふたたび薬王寺温泉で身体をほぐし、道の駅Hでテントで野泊。

同じく野宿の徳島在住の歩き遍路のおじさんと、近所のアマチュア無線好きのおじさんと
夜遅くまでダベることになった。
立場とか年齢とか気にしなくていい会話は楽だ。

といってもさすがに眠い。明日からのためにも早く寝たいのだが…。
結局日付が変わる頃にようやく就寝。



テントの中で、会社のことがふと頭に浮かぶ。
こんな休んでて良いのだろうか。
1ヶ月後にはちゃんと回復してるのだろうか。
休職の事務手続きはうまくできただろうか。
今後どう生きていこうか。

先のことを考えると途端に不安感に襲われた。
まだ、鬱状態は治ってはいないようだ。

もう四国に来てしまっているのだ。会社のことなんて考えても意味が無い。
綺麗サッパリ忘れて、明日からお遍路に集中しよう。たくさん歩こう。
薬は4週間分ある。行ける所まで行ってみようじゃないか。


その日は風が強く、テントの布がバサバサと音を立て、何度も起こされた。
徳島での最後の夜が更けてゆく。


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