煩悩遍路9日目(前篇)「煩悩のはじまり」―修行の道場―

9日目(前篇)


「ドコドコドコドコ…」

早朝4時、太鼓の音で目が覚めた。
住職による朝のお勤めが始まったようだ。

ぼくとリク君はとりあえず起きて、顔を洗いに通夜堂の外へ。
住職とも朝の挨拶を交わす。

噂によるとこのお寺では滝行も可能らしく、チャンスあらばぼくも…と思っていたが
よく分からずなんだか眠くなってきたのでいつの間にか二度寝してしまっていた。

はっ…

気付いたら6時過ぎになっていた。通夜堂に、一人。
リク君はもう出発したようだ。
まぁまた縁があれば会えるだろう。



出発するまで住職と話すことができた。

「マジメは良いことだが、裏でストレスにもなる。物事には常に表裏があるんだよ」
「車のハンドルと同じく “あそび” を持とう」
「悟りを意識して生きよう。物事への執着がなくなること。いつもニコニコしていること」
「週に2,3日、脳を休ませる日を作ってみたらどうか。
 休日2~3時間遠くに行くとか、ぬるま湯で長風呂とか、汗をかくとか」
「ワシも基本的にマジメで自分を苦しめるタイプだから君の悩みはよく分かるよ…」

念願だった人生相談、予想以上に具体的なアドバイスはとても嬉しかった。
では、行ってきます!



今日は30数キロ歩いて室戸岬の先っぽの24番最御崎寺を目指す。
夜は、その近くの民宿Mに予約した。
これは5日目の終わりに出会ったヒロさん(逆打ち)にオススメされた宿だ。
歩いてすぐ室戸岬があるので、夕日、朝日、どちらも見られるよ、とのこと。


天気は快晴!
青い空、煌めくひろ~い太平洋、荒々しい波音。
右手に山、前に国道、左に海。単調だけれどその雄大な景色が楽しく、
ズンズンと足を進めていった。

「 私は空海になれない
  空海も私になれない
  私は私 私の道さがす 」

というメッセージ看板発見。
ほほう…。



ペースが近い歩き遍路のおじさんがいた。
抜きつ抜かれつしつつ、お互いを意識しあい…休憩場所にて先方から話しかけてきた。

感じの良い精悍でエネルギッシュなおじさんだ。無精髭がかっこいい。
聞けば、区切り打ち&野宿で歩いているそう。
しばらく話して、一緒に歩くことに。
ここではシロさんと呼ぶことにする。



話をしながら海の横を進む。
シロさんは高知県内に住んでいて、今回は家まで歩くらしい。

「ウチに泊まってってよ、妻もいるから狭いけど、寝袋でよければ」
「あ、ありがとうございます!助かります」

バリバリのアウトドア好きで、山、陸、川、海、ならなんでもござれ。
一方でインドアにも長けていて、絵や工作も得意。

すげー、スーパーマンかよ!
趣味という意味ではぼくと共通する部分(登山や絵)もあり、会話が弾んだ。



日差しが強い。南は海が広がるばかりで、陰もない。
帽子を忘れ、手ぬぐいを頭に巻いているだけのぼくに気を遣ってくれたのか、
シロさんがリュックの中をゴソゴソしだした。

「これ、予備で持ってきた帽子なんだけど、貸してあげるよ。
 今度ウチに来たとき返してくれたらいいからね」

……!
ぼくは完全にハートを掴まれてしまった。
元々おじさん好きの上に、この優しさである。

好きな人に帽子を貸してもらえた。
この帽子を借りている限り、確実に、いつかまたシロさんと会えるということだ。


思えば、この旅の出発の朝、家で帽子が行方不明になった。
弘法大師さんがぼくとシロさんとを引き寄せるために、帽子を隠したのかもしれない。

そんなヘンテコなことを妄想するくらいには、ぼくは彼に惹かれていたんだ。



「プルルルrrr」
「やあ」

シロさんの携帯に電話がかかった。誰だろう。
電話の向こうの声は聞きとれないけど…。
まあ気にせず、歩く。



もうお昼になっていた。
昨日と打って変わって、楽しい時間が持て、時が経つのがはやい。
海の景色も素晴らしくて飽きない。
そして何より、シロさんという人と一緒に歩けているんだから…。

昼ご飯は通り道にあるスーパーでお弁当やお惣菜を買った。
シロさんは昼からお酒を買い、飲みながら歩いていた。
「ちょっと感覚が緩まって歩きやすくなるんだよ」
って、アホか。恰好よすぎる。

一方ぼくは、無意識にシロさんの(速い)ペースに合わせようとしていたせいか
左足のくるぶしのあたりの付け根が痛くなっていた。
歩く旅、ピキッと嫌な痛みが走る。

重心を右半身に偏らせたり、左足の向きをズラしたりしてなんとかごまかしつつ、
シロさんに付いて行く。
けっこう無理していた。



歩き遍路3回目のシロさんには、お遍路自体についても色々とお話を聞けた。
なかでも、前々から気になっていた、「お接待を受けることへの罪悪感」について。
「甘えるのも修行のうちだよ」
とアドバイスをくれた。
なるほどねぇ、甘えること…。
ぼくはプライドが高くて、あんまり人に甘える、というか人からの協力を素直に受けることが
下手な面はあるよなぁ…なんて考えていた。



さて、延々海のそばを歩いているがまだまだ室戸岬にはつかない。
というか、見えない。分からない。
地図で見ると四国の室戸岬の東側なんてまっすぐじゃないかと思うけど、
実際に歩いてみるとけっこうジグザグしてて、遠くからは室戸岬が分からないのだ。

それでも今日の行程の半分を過ぎたあたりで、名勝「夫婦岩」に到着。
おお~ここが夫婦岩か。大小二つの大きな岩が縄で繋がれ、
ザッパーンと大きな水しぶきがかかり、風も強い。

「プルルルrrr」
シロさんの携帯が鳴った。

「やあ、いま夫婦岩に着いたところだよ、うんうん、現地で連れが見つかってね。
 かわいい女の子だよ…いや冗談、冗談。爽やかな若い男の子だよ…」
(・・・)
「誰と喋ってたんスか?」
「いやねぇ、ファンがいてね(笑)」

ファン…?
まあいいか。夫婦岩で電話してるあたりがなんとなくアレである。



近くの木の下にある僅かな陰に座り、お昼ご飯を食べる。
足を休め、ちょっとマッサージをすると、いくぶんか足の痛みは取れた。



ひたすらに、岬を目指して歩く。
「どんな歌を聴くの?」
「う~ん、けっこうバラバラですね。古いのから新しいのまで。吹奏楽とかも好きですし」
「俺はフォークやジャズがもっぱら好きだね」
「フォークもたまに聴きますよ、最近だと『岬めぐり』がお気に入りで、この旅のテーマソングにしてるんです」
「お、『岬めぐり』懐かしいなぁ。俺、若いころ好きな人にフラレて、その曲の通り、バスで岬を旅したよ」
「何やってるんですか(笑)」

とまぁこれは一例だが、話をすればするほど趣味が合う、というか、似てる部分があるのだ。
それはシロさんも同じように思っていたらしい。
はじめにそれを直感で感じ取り、声をかけてくれたんだと。



夕方、ついに室戸岬に到着。
そこから更に山を登り、標高165mにある24番最御崎寺へ!!

「あれだけ歩いた後もすいすい階段を登れて、俺のペースに着いて来れるなんて、
 キミ体力あるよ」



ぼくはまた下山し、岬の先の民宿へ泊まるが、
シロさんはもうちょっと歩いてその辺で野宿をするそうだ。
多分おじさんの方が足が速いから、追いつけないとは思いますが、高知でお会いしましょう。
連絡します。
帽子も返さないといけないですしね。



シロさんが何度も口にしていたことを思い出す。
「ほら、お遍路してたらよく見るだろう、人は誰でも何をしても死んだら石になるんだ。
人はいつ死ぬか分からない。今、やりたいこと、好きなことをしなくちゃ。
人に何を言われようとも、自分の人生だよ」

好きなこと…。お遍路、かなぁ。
なんとなくだけど、お遍路をしている自分に対して、肯定的に捉えられるように思えた。



さようなら、シロさん。今日は楽しかった。



民宿Mに到着。南海トラフ地震が来たら一瞬で津波に飲み込まれるんだろうなぁとか思いつつ、
まあそんなもん考えたところで…ってとこだよね。
ある意味、シロさんの言葉を借りれば、好きなことをしていて死ねるのなら…。



夕飯までのあいだ、室戸岬の先端を散歩する。
三年前のスケッチ旅で、バスで来て、約1時間だけ滞在した場所だ。
そこに歩いてきたというだけでも、感慨深いものがある。

ああ、ここだここだ。この岩の上でスケッチしたんだっけ。
聞こえるのは波の音、岩に水が打ち付ける音、風の音。

遠く太平洋を臨む。

心を無に…はならなかった。
シロさんのこと。

シロさん、カッコ良かったな。次はいつ会えるんだろう。
「いい人」に出会えた。満ちたりた一日だった。
お遍路に来てよかったと思った。



さあ、夕飯の時間だ。
ごちそうが待ってる。



―後篇へ続く―


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