煩悩遍路10日目(前篇)「再会と疑念」―修行の道場―

10日目(前篇)

室戸岬に新しい朝が来る。現在時刻、AM5時前。

6月とは言えアウター無しではいられない寒風の中、海岸へと赴いた。
さあ、御来光だ。

世界が輝きだした。
動物たちの声が聞こえ始める。

おはよう、世界。おはよう、四国。



7時半、宿を出発。
自転車旅をしているおじさんから、お遍路さんと同じ宿に泊まれるなんて滅多に無いから
記念に写真撮ろうよと誘われた。
そんなに珍しくは無いと思うんだけどな(笑)



海岸沿いを北西へ歩く。
地形は相変わらずダイナミックで、海、道路、山が近く、そんな道がずっと続く。

断面図はこんな感じ↓

             
          / ̄ 
       人 / 山 
 ~~~~「 ̄ ̄ ̄    
   海    道     


途中で歩き遍路の男性と出会い、一緒に行動することになった。
ヤマさんと呼んでおこう。

30代後半の彼もまた区切り打ちで、今回は高知一国参りが目標だと言っていた。

2日連続で旅の同行者がいてくれるのはありがたかった。
何気ない会話が楽しい。

今日もまた快晴で、日陰もなく暑いけれど、
お互いの身の上話をしたり、これでのお遍路の出来事を言い合ったりと、飽きなかった。
途中、昔ながらの町並みが保存された地区があって、ちょっとした物見遊山気分で
歩くことが出来た。炭でできた風鈴、欲しかったなぁ。でも荷物はなるべく増やしたくない。



昨晩美味しいものを食べ、しっかり寝たせいか、足の調子がすこぶる良く、
若干の“ウォーカーズ・ハイ”状態になっていた。
今にも走りたくなるような感覚。走りはしなかったけど。

一方ヤマさんはそこまで快調でもなく、ちょくちょく休憩を取りつつ歩いた。

夕方歩き終えたときに
「君と一緒だったおかげで今日歩ききれたよ、ありがとう」と言われたけど、
思えば、ぼくも、ヤマさんのおかげで無理なくしっかり休みながら歩けたのだし、
何より精神的に色々と助かったのだよな。

お互いがお互いの支えになる。
そんな、人と人とのつながりを改めて認識させてくれる。



夕方、2人ともバテバテの状態で奈半利町の街中に到着。
ひさびさにコンビニを見て、駆け込む。飲み物などを買ってしばし休憩。
あの時ほどコンビニが神々しく見えたことは無い。

そこから更に川を越え、田野町に入る。結局30キロ近く歩いた。

ヤマさんは近くの宿に泊まるとのことで、ここでお別れ。
また会った時よろしくお願いしますね、と。



ぼくは今夜は道の駅Tにてテントを張るつもりだった。
従業員にも許可をいただき、準備万端。

まず近くの温泉にいってさっぱりしてからスーパーに買い出しかなぁ…
ぼんやりと座っていた。



…そういえば、昨日のシロさん、今日はどこまで歩いたんだろう。
足が速いから、きっとかなり先に行ってるんだろうな。

思い切って電話しちゃえ。

「プルrrrrr、あ、もしもし、昨日一緒にあるいたちかひらです。今日は暑かったですね。
お借りしてる帽子、役に立ってます」

「いや、シロさんはどこまで歩いたのかなぁと思って電話したんですけど…。
わー、もうそこまで行ってるんですね、さすがです」

「あーぼくは道の駅Tにさっき着いたので、ここでテント張ろうかなと思って
いま休憩中なんですよ」

「そうですね、明日は天気悪そうですが頑張りましょう、また高知に着いたら連絡しますね。
ではでは、ガチャン」

今日もシロさんの声が聞けた。それだけで心が弾んでいた。
なんだか急に一日が終わった気がして、力が抜け、
温泉に行く気はあるのだが、くったくたになった足がなんとも動いてくれないご様子。

しばらく地図やスマホを眺め、明日の行程を考えていた。



車が目の前に止まった。

「おーい、ちかひらくん!」
「!?????」

車から出てきたのは、シロさんだった。なぜここに?
夢かと思ったが、頬をひねっても痛くない。

どうやら、シロさんは今夜野宿しようとしていた場所附近で食料調達しようとしたが
スーパーが見当たらず、近所の人に尋ねてみたところ、
ありがたいことに、車でスーパーまで連れてってもらえることになったそうだ。

そのスーパーが、たまたまぼくが居た道の駅の近くだったので、
わざわざこの場所に寄ってくれたのだ。

嬉しかった。
ぼくのことを気にかけてくれているということが、嬉しかった。

「どうする?一緒にスーパー行ってさ、良かったら今夜は一緒に野宿しようよ」
「え、いいんですか?温泉行こうと思ってたけど…どうしようかな」
「昨日民宿で風呂入ったんだろ、今夜はいいじゃないか」
「それもそうですね、じゃあ行きます!」



ぼくが直前にシロさんにちょうどいいタイミングで電話したことと、
シロさんがお接待で近所の人にスーパーまで連れてってもらえることになったこと、
そのスーパーがぼくの居た場所のすぐそばだったこと、
これら独立した事象が奇跡的に重なって、ぼくはシロさんとまさかの再会を果たした。
こんなことって、あるんだね。

ありがとう、弘法大師さん…。
(不純な意味で)感謝しかないです。

そうしてぼくは、親切な地元の方の車お接待に便乗し、スーパーで夕飯を買い、
そのまま数キロ先の、シロさんが見つけた野宿ポイントまで向かった。



車の中で、ぼくはちょっと考え事をしていた。



シロさんはどうしてこんなにもぼくに親しくしてくれるんだろうか。
ぼくにかまってくれるのだろうか。
どうして野宿を誘ってくれたのだろうか。

昨日の歩いている途中に掛かって来た電話が気になっていた。
電話の向こうの声は聞こえなかった。
けれど、普通に考えると、おそらく、女性で、愛人的な存在だろう。

でも、もしシロさんがゲイで、電話の向こうがゲイ仲間だったとしたら…?
いやいや、結婚してるじゃんと思われるかもしれないが、既婚ゲイという存在は少なくはないのだ。
そして、今夜はぼくを狙おうとしている、という可能性もゼロではない。

四国遍路に関する書籍やマンガ、ウェブサイトなどでよく目にする、「ホモが出る」の記述。
信憑性は定かで無いが、そうした被害が出ている、らしい。
「あそこはホモが2人いるから野宿しないように」といった噂話を
他の歩き遍路から聞くことも実際にあった。

他ならぬゲイ当事者として、意識せずにいられない事柄である。
シロさんがゲイという可能性も、無きにしもあらず、なのではないだろうか…と。



と言いつつも、仮に噂話通りのホモに出くわしたとして、
ぼくもゲイなので、まあ何とかなるだろうというか、心の余裕はノンケよりはあるというか、
むしろシロさんがそうだった場合、ドンと来いというか、
そういうふうに思っていたりした。

…ただの変な妄想野郎である。
うーん。



さて、車に乗ること15分程度で、野宿ポイントに到着した。
それぞれテントを設営し、夕飯を食べ始める。
夕焼け空は赤く染まっていた。

「基本、毎日テント泊ですか?」
「そうだね、テント好きだから。風呂も特に好きじゃないから、水タオルで十分だよ」
「たくましいなぁ…」

シロさんは早くも缶ビール2杯めを飲み始めた。
夕飯を食べ終わってからも、趣味の話や体力の話、アウトドアの話など、話題は尽きなかった。



「そういえば、高知に着いたら本当に家に泊めていただいてもいいんですか?」
「もちろんいいよ、ぜひぜひ。ちょっと妻に確認してみよう」

シロさんは奥さんに電話をかけたが、出なかった。友達と飲んでいるらしい。
ちょっとした間のあと、シロさんが急に低い声で話し始めた。

「そうそう、ちかひらくん、お願いがあります」
「何ですか?」
「昨日、たまにかかってきてたあの電話のこと、妻の前では話題にしないでほしくて」
「ははあ・・・愛人、ですか?」
「まあ要するに・・・その、“彼女” がいるんだよ・・・」


気づけば、お互いの顔が見えないくらいに夜が迫っていた。


「・・・セックスレスって、分かる?」


―後篇へ続く―


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コメント

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2016年09月12日(月) 23時56分 | | 編集

ちかひら(管理人) #-

Re: もんげー!

コメントありがとう!

いやほんとリアルにこんな出来事がいきなりあったから
びっくりした(笑)

まだまだ続くけど、気長にお楽しみに♪

2016年09月14日(水) 21時40分 | URL | 編集


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