煩悩遍路11日目「雨」―修行の道場―

11日目


早朝、シロさんとは別れ、ぼくは単独、27番札所神峯寺へと向かった。
時刻はまだAM6時過ぎだ。急な山道には人っ子一人いない。

暗い道を一人で歩いている。昨日までの天気から一転、今日は薄曇りだった。
連日の長距離歩行で、朝から脚も肩も痛みが走る。



シロさんのことを考えていた。
彼は、良い人だ。
でも、悪い人だ。

良い人、悪い人って、なんなんだろう。
人間は色んな側面を持って生きている。簡潔に「○○な人」と表現なんかできないんだよなぁ。

ぼくも、良い人であり悪い人である。
明るい人であり暗い人である。
健康で病気である。

人って何なんだろう。

結論の出ない問答をひたすら脳内で反芻し、
山の上のお寺に着く頃にはすっかり消耗しきっていた。



朝一番でのお参り。
と、そこに車遍路の老夫婦がやってきた。

沈み込んだ心を、おばちゃんの笑顔が癒してくれた。
助かった、と思った。

その夫婦は、今回で4回目のお遍路らしい。

「友達からはどうしてそんな何回も同じことをするの?と聞かれるけど、
何回もしたくなる不思議さがお遍路にはあるわよ」

「あなたも、八十八ヶ所一周まわったら、違う自分に会えますよ」



同じ道を引き返し、下山する。
途中、昨日のヤマさん、一昨日のリクくんとすれ違った。
今日はあの2人が一緒に歩くことになるのだろうか。

どちらにせよ、彼らに追いつかれることはないだろうな、と思った。



お遍路ではじめての本格的な雨が振り始めた。
レインウェアを来て蒸し蒸し感じながら海岸沿いの単調な自転車専用道路を歩く。

まっすぐで、海ばかりで、街からも離れていた。

この日、ぼくはほぼ誰とも喋らず10時間を歩いた。
暗い空を見上げ、雨粒が顔に当たる。
繰り返し、繰り返し、悩んでいた。
良い人、悪い人ってなんだろう・・・。

お遍路に来て、却って煩悩が増えてしまったようだ。

結局、室戸岬でのお兄さんが言っていた通り、人と比べるから悩みが増えるのだ。
人は人、自分は自分。
人と比べて、自分の出来なさに嘆いたところで何になろうか。
ましてや、シロさんは40ちかく歳が離れているというのに。



脳みそはもっと本質的な問答へと堕ちていっていた。

本当に好きなものって何だ?
ぼくはアウトドアが好きだ、お遍路が興味ある、歩くのが楽しい。
…と、思っていたはずだ。

でも、この雨、この悲しみ、この孤独、この単調さ…

好きなものって、好きだと思い込んでいる、或いは思い込まされているだけなのではないか?
それをして、人から褒められるのが嬉しいだけなのではないか?
褒められるために好きだと思い込んでいるのではないか…?



止まない雨、誰とも会わず、車には水をはねられる。
安芸の土地特有の、黒い砂浜。
その日、色という存在を感じられなくなっていた。
モノクロな世界だった。

「バカヤロー!」

つまんない漫画みたいに、ぼくは海に向かって叫んだ。
ぼくの叫びは誰にも聞かれることなく、雨と波に飲み込まれた。
視界の及ぶところ、前後左右、すべてに人がいなかったから恥ずかしくなんかないぞ。



この日の夜は、道の駅Yの端の端の軒下。
テントに潜り込む。
聞こえるのは雨の音か、波の音か。

ウォークマンのイヤホンを耳にさし、
さみしさを紛らわせた。

ひとりテントの中で、一日分の悲しい自慰をした。



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