煩悩遍路13日目「1日未来を歩く」―修行の道場―

歩き遍路は、ペースは違えど1日に歩く距離はだいたい似たようなもので、
以前出会った人とひょんなところで再会することが多々ある。

その逆で、自分より1日先、あるいは前に出発した歩き遍路と親しくなることはほとんどない。
よっぽど人よりも速歩きする人か、
もしくは、往復の経路が重なる区間ですれ違うくらいだ。



この日、ぼくは早朝に高知のゲストハウスを出発し、いつもより急ぎ足で歩いた。
35kmほど先にあるお寺の通夜堂で宿泊させてもらうためである。
納経所の閉まる17時までに到着しなければならない。

昨日ともに歩いた遍路仲間と会うことはもちろん無い。1~2時間のずれがあるだろう。



太平洋と桂浜が一望できる高台のお寺の境内で、以前お接待で頂いていたおせんべいを食べる。
リュックサックの中ですっかり割れてしまっていた。
固いものは割れる。そんな当たり前のことをしみじみと一人噛み締めていた。



浦戸湾を越えるには、風の強い浦戸大橋を渡るか、県営の渡し船に乗るか、2通りの方法がある。
浦戸大橋を渡れば、桂浜に寄ってちょいと観光気分も味わえるのだが、
なんせ今日は時間がないし、3年前に桂浜は堪能したということもあって、
今回は渡し船を利用することにした。

船乗り場までの道中も、暑い日差しが照りつける。
「何も考えずに一人で歩く」なんて、そんなことできるのだろうか?
そんなことを考えながら歩いていた。無心は難しい。

船は1時間に1本。なるべく早く進みたいぼくは、乗り場まで走ってみた。
10kgのリュックを背負って、菅笠と金剛杖を持ってドカドカと足音を立てて走る変な遍路。
無心にはなれたが、疲れてきてアホらしくなったのでやめて、1時間あとのに乗ることにした。



渡し船は旅情があって良い。
待ち時間に、近所のサイクリング好きなおじいちゃんに話しかけられて、しばし会話をする。

「歩いてると、だんだん自分は本当に旅や歩くことが好きなのか分かんなくなってきちゃって」
「好きかどうか悩むんじゃなくて、好きになればいいんじゃないのかな」とおじいちゃん。
根拠は無いけど、少し、気が楽になったような気がした。

「歩き遍路さんは孤独で、誰かと話したがってる。だから俺はなるべく声をかけるようにしてる」
のだそう。
良い人だ。まさに、ぼくが欲していたことだった。

一人で歩くことは苦ではない。でも、ずっと一人では何事もつまらない。
誰かと話したがってたんだろう。
おじいちゃんと話したことで、やっぱり歩き旅は好きだ、と思った。



夕方、仁淀川にたどり着く。
雲が出てきた。明日は雨らしい。

ここからは35番札所清瀧寺へのピストン区間である。
明日は同じ道を引き返してくることになる。

早朝の出発&早歩きだったぼくは、ここで数人のまだ見たことのない歩き遍路とすれ違った。
ぼくより1日未来を歩いている遍路のみなさんだ。
もしぼくが1日早くお遍路を開始していたら仲良くなっていたかもしれない人達。
そう思うと、パラレル世界に迷い込んだような気分になれる。

おじいさんみたいな人、真っ黒に日焼けしたぽっちゃりなお兄さん。
「こんにちは」「お疲れ様です」

すれ違いざまに、それを言うだけだった。



何か、モヤモヤするものがあった。
次、誰かとすれ違ったら、挨拶だけじゃなく、話をしてみよう。

お寺への上り坂がはじまったあたり、時刻は午後4時半ごろ、
一人の若い歩き遍路が降りてきた。

「お疲れ様です、今日はどちらまで歩くんですか?」
「どうも、私はこの先のトンネルの手前の休憩所で野宿できるらしいんで、そこまで行こうかなと」
「おお、まだまだ歩くんですね、頑張ってください」

その人から質問された。
「年齢近そうですけど、おいくつですか?」
「ああ、26ですよ」
「やっぱり近い!俺は27です」
「27…(ん…?)もしかして、徳島で、通し打ちの23歳の子と一緒に歩いてませんでした…?」
「え…、ああ、歩いてましたよ」
「やっぱり!ぼく、その子とペースが同じで、何度か会ってるんです。
 昨日は高知で宿泊したみたいなので少し手前にいるんじゃないかな。
 あなたにすごく会いたがってましたよ」
「はは、それはご縁ですね!」

「では、ぼくはこれからお参りしてきますので。今夜は通夜堂に泊まらせてもらおうかなと」
「上の通夜堂なら、たしか一人泊まると言ってた人がいましたよ。良い夜を!」
「さいなら!」

勇気を出して声をかけてみてよかった。弘法大師の用意してくれたご縁だと素直に思った。



納経のタイムリミット、17時になる前に目的のお寺に到着。計画通りだ。
境内には、すっかりリラックスモードの歩き遍路のお兄さんが座っていた。

少し話をして、一緒に納経所へ、通夜堂で寝させてもらう旨、了承を得にいった。
今晩は2人で通夜堂泊、である。



そのお兄さん、名前はイタルさんとしておこう。

イタルさんは30代。ワーホリなど経験したあと、最近退職して、
次の仕事にとりかかる前に一度やってみたかった遍路を区切り打ちでやっているという。
区切り場所がぼくと全く同じ日和佐で、しかもその期間がたった1日ズレということで、
お互いびっくりした。
もしかしたら、もっと手前で出会っていた可能性もあるわけだ。
出会ってはいないが、天候のことなどで共通経験もあり、話がはずんだ。

そしてもう一つ、以前別のお遍路さんから、
靴のインソールが合わなくて足を痛めていた若い遍路がいるという話を耳にしていたのだが、
それがイタルさんのことだった。
頭のなかでジグソーパズルがはまった音がした。

ペースが速い人、遅い人、順打ちの人、逆打ちの人、色々いて、それぞれが別々に会話をする。
でも、それが回り回って情報伝達していく。共有される。
夕方すれ違った27歳の人のこともそうだ。

昔、旅人は情報を運ぶ人でもあったという。
なんとなくそれが肌感覚で分かったような気がした。


1日未来を歩く遍路とは、あまり会うことは無い。
でも、気づかないところできっと接点はあって、いつかどこかで縁がある。
各人は孤独だけど、同じ経験を共有しているかもいしれない。


そんなことをイタルさんと話しながら、通夜堂での夜は更けていった。
雨音が屋根を叩き始めた。
明日は雨らしい。

13日目


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