煩悩遍路14日目「交差点」―修行の道場―

14日目(1)


朝から雨音が屋根を叩く。
6時半ごろ、いつ出発しようかなぁなんて考えながらパンを一人食べていた。
イケメンのイタルさんは隣の部屋でまだ寝てるようだ。

通夜堂は原則として納経所が開く午前7時までには明け渡して出発しないといけない。
しかし、この雨の中、全く出発する気がしなかった。

ようやくイタルさんが起きてきた。
ん~。寝ぼけ顔もかっこいい。

と、そんなことはどーでもよくて、問題なのは僕らがいつ出発するかである。
どうしますかね?



歩き遍路が朝まず考えることは、
地図を広げ、その日どこまで歩くかと、宿泊の目処を立てることの2つである。
この雨の中どこまで行けるだろうか。
いつも通り30km進むならばこのへんまで行けるんだろうけど、
野宿できそうなポイントは無さそうだし、
こんな雨の日に野宿するのは嫌だなぁ…

僕がうだうだ悩んでいる間、イタルさんは落ち着いた心構えで朝飯のカップ麺を食べていた。
彼は歩き急いではいないようだった。

その最中、ヤマさんがびしょ濡れになって追いついてきた。1日ぶりなのに、久しぶりな気がする。
そして、「先いくわ~またね」と言って去っていった。
これ以降、彼と会うことは無かった。

そんなこんなで9時半。
ここから15kmほどの距離にある国民宿舎の安いドミトリーを発見し、
イタルさんと一緒に今夜も泊まることになった。

当日だけど空いてるかな~、予約できるのかな~とうだうだ言っているぼくをよそ目に、
イタルさんがサクッと電話して予約確定してくれた。

考えるよりまず行動。
これが30代の貫禄か…。ぼくもかくありたいものだと思った。



さて、宿の予約もできたところで、ようやく歩き出した。
レインウェアを着てもしみて来る雨。撥水機能が完全になくなっている。
川のように雨水が流れるアスファルトを2人、下っていった。

イタルさんはもうちょっとしっかり朝(昼)ご飯を食べてくるとのことで、
1時間ほどで一旦別れた。また夕方、宿で。

ちょっとさみしかったけど、ペースも違うし雨も降ってるし、
そもそも単独行動が歩き遍路の基本であり、
そこんとこを「ご飯食べてくるね」と言って自然に実行したあたりも
彼の優しさだなと思った。



そして、ぼくはぼくで急がなければならない理由があった。
夕方に会社のカウンセリングの電話が1時間かかってくる予定が入っているのだ。

つまり、その時刻にはどこか雨を避けられて座れる静かな場所にいなければならない。
おそらく、次の札所の境内のどこかとなるだろう。
間に合うように、雨の中をそそくさと歩く。

靴の中がかなり浸水してきていた。
そして、左足が痛い。ピキッとくる痛みだ。一歩一歩がきつい。
昨日早歩きしたからだろうなぁ…。でも、今日の歩行距離は短いから、その点は安心だ。
あれ?それなら昨日もっと手前で宿泊すればよかったのではないか…?
いやいや、もしそうだったらイタルさんと会えなかったんだから、これでいいのだ。多分。



予定どおりなんとか札所に到着し、
カウンセリングの電話で「お遍路してるんです」と言ってちょっとびっくりされ、
丘の上の国民宿舎Tに到着。

ロビーではもうイタルさんが到着し、椅子で寝ていた。
電話している間に追い抜かされていたみたいだ。

チェックインを済ませた。
係の人から、今夜はもうひとりお遍路の方がドミトリーで予約しているとの情報を得る。
誰だろう。途中で会ったおじさんかな?
部屋に荷物を置きに行った時点ではまだ着いていないようだ。



風邪をひかないように、さっそく入浴することに。
濡れた衣類をイタルさんのと一緒に洗濯機へ。
そして、浴場で裸のおつきあい。

一方的にドキドキはする。これは仕方ない。
もし、ぼくがゲイだと言っていたらどういう反応をされるのだろう。
多分、イタルさんならなんてことはなく受け入れてくれるだろうけど…とかそんなことを考えながら
室戸岬の民宿以来の湯船に入り、身体の芯から温まった。
風呂はいいねぇ…。今日は宿とってよかったねぇ…。と2人でリラックスしていた。



とそこに、3人めのお遍路が入ってきた。

あれ????
リクくんだった。

まさかこんなところで(しかもお風呂で)再会するとは(笑)
向こうもかなり驚いてたし、お互い笑った。



その夜は楽しかった。
若者3人で、夕飯を食べ、ドミトリー室でダベる。
みんな出発のタイミングも歩くペースも違って、抜きつ抜かれつしつつも
どこか接点のある情報を共有し合う。

イタルさんとリクくんも、室戸岬の手前で一度姿を見たことがあったらしい。

歩き遍路は誰しも沢山の人達に出会い、ドラマが生まれる。
その出会った人同士の間にも当然ドラマはあって、

そのドラマ同士がどこかのタイミングで共有され、
さらなるドラマが発生する。

そうしたストーリーの交差点の一端に触れたときに、はじめてそのことに気づくのだけれど、
ぼくはその時、このことが、
歩き遍路というものの最大の楽しさ、中毒性なのではないか、と思った。



日没の前、雨が止み、景色が見えるようになっていた。
円弧を描く海岸線は水平線とくっつきそうなくらいまで遠く、ずっと続いていた。

南東の彼方に見える岬、あれは室戸岬だろうか。
「あそこからここまでずっと歩いてきたんだね…」

3人で一緒に歩いたわけではないのに、一緒に歩いたような、
そんな不思議な一体感に包まれつつ、
人間、やればなんでもできる、どこまででも行けるんだよね、などと
胸の奥が締め付けられるような、リアルな感動を、
覚えていた。

くたびれた身体を動かすこと無く、
3人は突っ立って遠くを見つめ続けていた。



後日談となるが、その後、結願の報告をイタルさんにメールした時、
彼はこう振り返ってくれた。

「国民宿舎から観た風景、忘れられないですね。室戸岬の方まで一望出来た場所。
コツコツと歩いてきてすっごい距離を歩いてきたというのは、自信になりますね。
そのまま人生の教訓になりそう。
自分でも気づかない無意識のうちに心に変化は起きていると思いますよ」

ありがとう、また、どこかで。


14日目(2)




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