煩悩遍路18日目「菩提入門」―菩提の道場―

18日目(1)


朝、携帯の電話着信が鳴った。

「おはよう、ご飯できたよ、起きてる?」
「(寝坊したぁぁ)おっ起きてますよ??今行きます!」

シロさんの家で朝ごはんをいただく。
寝過ごしたのは、昨晩お酒を飲んだせいということにしておこう。

「さて、どうする?この辺で区切って帰るか、もう少し進むか」
「やっぱり、気持ちの整理もまだついてないし、こんだけお世話になっといて帰るのもなんなんで、
とりあえず松山までは行くことにしました」
「そう、それがいいね(笑)」

一応は今日打つ予定の39番延光寺で、高知県のお寺はコンプリートとなり、キリがいい。
でも、別にスケジュールに追われているわけでもない。
身体はヘトヘトだけど、なんとなく…まだ続行したほうが良い気がしていた。

昨日と今朝、これだけお世話になったのだから、歩きたいと思った。



玄関先まで送ってくれた。
「あそこの道をずっと行けば遍路道に合流するからね」
「松山についたら連絡して」

シロさん、お世話になりました。
また…会えるかどうかわからないけど、この縁は大切にします。



さて、半日ぶりの徒歩。薄曇りの空の下、ひとりで歩く。
車ワープしちゃったから、
先日まで会ったり別れたりしていた歩き遍路仲間ともかなりの距離の差ができてしまっただろう。
そこは寂しい。でも、それはそれ。
また新たな出会いもあるかもしれないと考えを切り替える。



延光寺をすぎると難読で有名?な宿毛市に着く。
ちょっとした田舎の住宅街という感じで、お店もそれなりにありそうだなぁとか思いながら
高台から見下ろしつつ通り過ぎた。

ここからは坂を登り、松尾峠へ。
高知と愛媛の県境。ここから先は、「菩提の道場」。

お遍路の全体の距離的にもだいたい半分くらいの地点。
もう半分。まだ半分。

峠の手前の畑で仕事をしているおっちゃんたちとしばし会話をした。
「○○するろ~」っていう方言が印象に残っている。
「峠は結構きついからがんばれよ」的なことを言われて、力も湧いてくる。



お世辞にも整備されてるとは言えない草ボーボーの山道を登り、峠を越す。
すると急に道幅が広くなり、しっかりとした手すりまで作られてたりして、
各県の遍路道への力の入れ具合が露骨に分かるのが歩いてて妙に面白かった。
やっぱり県境は良い。



峠の先、一本松町というところでひとりのおじいさんと出会った。
この辺にずっっと住んでいるという。

彼は幼いころ見たという昔のお遍路さんの姿を教えてくれた。

毎日托鉢をして、その日のメシ(お米)をもらう。
担いでいる重たい鍋で、川の水を使ってそのお米を炊いて食べていた。
衣類もめったに洗えないから、白衣のはずが茶色く見えた。
そして、橋の下で寝ていた…。

「遍路の本質は修行だ」

「今の時代、修行の要素は薄れてきてるけれど
その日はご飯を食べない、夜通し歩いてみる、托鉢をしてみるなど
一度わざと苦しいことをする日を作ってみてもいいかもしれないね」

「人生は苦労があるからこそ、楽しい。心の筋肉をつけよう」

「88番札所では、歩きで苦労した遍路は泣く。君も泣けるように、がんばりなさい」

「きっとこの遍路は君の人生にとってプラスになるよ…!」



この話を聞いてから先、橋を見るたびにその下で寝る昔の遍路の姿を想像するようになった。
そしていつか、ぼくも橋の下で寝たいとも思った。

そして彼の言う「わざと苦しいことをする日」。
3日前のぼくとリク君の徒歩50km超えはそれに当てはまるだろうか。
もしそうならば、あんな無茶なことをした価値はあったと言える。

と同時に、なんだかハードルが上がってきているようにも思っていた。
でももう、そのハードルを下げるきっかけは持ち合わせていなかった。

そして今日もまた、馬鹿みたいに長距離を歩くことになったのだった。



愛媛の一つめのお寺、40番札所 観自在寺に到着したのは夕方の4時頃。
ここは宿坊があるのだが、特に予約はしていない。

この14kmほど先に日帰り温泉Yがあるからそこまで行くつもりだった。

ちょっと休憩したあと、ラスト3, 4時間に備えて水分補給せねばなと思い、
宿坊のスタッフっぽいおばちゃんに、水道水を分けてもらってもいいですかと尋ねた。

すると、全然そんなつもりじゃなかったのに、
水だけじゃなく、新品のペットボトルのお茶とお菓子をお接待してくれた。
そしてしばし歓談。

「完歩!にこだわらなくていいのよね。
車お接待は弘法大師さんの与えてくれたご縁だからありがたく受ければいいのよ」

「お遍路は出会い。それに尽きる」

「お兄さん、笑顔が素敵よ。笑顔で、頑張らずに、頑張って!」

鬱になってから、表情作るのもしんどかったのになぁ。笑顔になれてるんだなぁ。
いまこうして、自然に笑顔が作れている現実、そうしてくれたお遍路に感謝。

ここでなんとなくだけど、
RPGで道端にいる人に話しかけたり話しかけられたりするとイベントが発生するのが
妙に人生(というか遍路)の本質をついてる!と思い付いて、ひとりで笑っていた。
一本松のおじいさんも、観自在寺のおばちゃんもそう。



さて、元気をいただいたので、あと3時間歩きますか。
おばちゃんからは近くにうどん屋さんがあって、同じ値段で何玉でも食べれるから
ぜひいきなさいとオススメされたのでそこにも寄った。

当然食べすぎた。食い意地張り過ぎである。



ここからの3時間がきつかったのは言うまでもない。今日も40km超を歩くのだ。

超高速マルさんから感染した長距離病という煩悩、
そして、今日おじいさんから言われた「わざと苦しいことをする」。

長時間歩けば手の届く40km。頑張って超えれた50km。
ふつうお遍路は1日30km前後くらいが標準なのに、
すっかりぼくの中で40km超えが基本ノルマと化してしまっていた。



だんだん夕暮れが近づいてくる。

1kmある直線の不気味なトンネルを抜けたころにはもうすっかり日が暮れていた。

温泉はまだか。もう少しのはずなんだけど…通り過ぎちゃったのかなぁ。
時刻は夜の8時。なんでこんな時間、こんな人気のない暗い国道をぼくは歩いているんだろう…

ぶつぶつ言いながらふと遠くに目をやると、薄暗い海辺に明々と光る建物が見えた。
今日の目的地だ。

着いた、というよりも、なんとか辿り着いた、という表現が合っていた。
ぼくはもう床に倒れ込むように建物に入り、温泉でその日の疲れを癒やした。
そして湯上がりのポンジュース。うまい。



その夜はすぐそばのキャンプ場で宿泊。
本当はテントを張るのに300円要るらしいんだけど、遅い時間だからか管理人がおらず、
どうしよっかなーと困ってたら、他の同じくキャンプする一般客の人が声をかけてくれた。

「歩き遍路さんですよね?夕方管理人に電話したら、遅いときは料金は不要らしいですよ」
と教えてくれた。

遍路を見るとさっと声をかけ、さっと助けてくれる四国の人。
本当にありがたかった。



テントの中で今日のこと、これまでのこと、これから松山までのことを考える。

菩提の道場・愛媛県についに来た。
菩提とは煩悩を断って悟りえた無上の境地のことだ。
つまりは愛媛を抜ける頃までには煩悩とおさらばしましょうね、てな解釈。

果たして可能なのだろうか?

たしかに、シロさんという煩悩とは今日でひとまず区切りはついた。
しかし、長距離歩行達成という煩悩がなかなかやっかいだった。


それを断ち切る手段を見つけ、実行する日は、しばらくまた先のこと…。

18日目(2)



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