煩悩遍路21日目「ほどほど」―菩提の道場―

21日目(1)

6月14日。2回目の区切り遍路開始から2週間が経った。

国道沿いの駐車場の夜はあんまり静かじゃなかったけどいつもどおり早朝に起床。
45kmくらい先の野宿スポットを目標にせっせと歩く計画を立てた。相変わらずだ。
分からない。何かに追われている感じがしていた。急がねばならない。



今日は大洲と内子という昔ながらの町並みが保存されている地区を通過する。
ここも3年前のスケッチ旅で来た思い出の場所。

9時ごろ、大洲を抜ける辺りで、昨晩寝ようとしていた十夜ヶ橋に着いた。

イメージと違ってコンクリの橋の下にコンクリの地面があって、風情はあんまり…(苦笑)
それでも、肘をついて横向き寝をしている姿の珍しい弘法大師の像と
「(前略)…この場所を四国霊場唯一の野宿修行道場にいたしました」の注意書きがあった。
ゴザも用意してもらえるらしい。面白そう。

ちょっと寒そうだけど、次回もし遍路することがあったら寝てみたい。



ふたたび歩き出す。
止まっている時と歩いている時はあまり感じないが、歩き始めると足全体に痛みがズキッとくる。
加えて、一昨日の雨の山越え以来足裏にマメがよくできるようになっている…。

そしてなんとなく靴が小さくなってるような気がする。
この2週間で足のサイズが変わってきているのは確かだった。長時間歩き過ぎか…?
靴紐を結び直してみても違和感は変わらなかった。



それでも先を急いでいると、前方に歩き遍路発見。
髭を伸ばしっぱなしの60代後半のおじさんだった。ここではマサさんとでも呼んでおこう。

マサさんは4月から、100日計画で遍路をしているそうだ。
1日の歩行距離は20km程度。同じ場所に数日滞在することもあり、
名所を巡ったり、知人に会ったり、絵を描いたりしているという。

ゆったりと、等身大の旅を満喫している様子が伺えた。
焦って先へ先へと進んでいる今のぼくとは対極だった。

今晩は内子で宿を予約してるとのことで、そこまで一緒に歩くことになった。
(なんと100日分の宿の予約を旅の出発前にすべて済ましているとのことでびっくりした。)



ぼくにとってはいつもより遅いスピード、マサさんにとってはいつもより速いスピードで歩く。
歩きながらいろんなことを教えてもらった。

「情報は人からもらえる。年をとった人はそれだけ経験も多いから、
仲良くなって色々教えてもらうと良い」

「お遍路で出会う人はみんな弘法大師だと思おう」

「旅先では立場や肩書きに関係なく、いち遍路として扱ってもらえるのが心地良いよね」

「お遍路では思ってもないドラマが生まれる。
この旅を映画にしてみたいし、他の遍路のドラマの見てみたい」

「スケッチした場所は忘れない」

人との出会い、そこから得られる情報や感情、ドラマ。
たしかに、歩き遍路の醍醐味は人との交流だなと、ぼくも思う。

100日かけてじっくりと歩いている彼は、その分、人との交流も多いのだろうか。
ゆっくりペースな分、同じ歩き遍路にはどんどん追い越されるだろうから、
「再会」というものはあまり無さそうだけれども。

でも、そこは比較するようなものではない。



一番印象的だったのは、「般若心経」の解釈だった。

般若心経=ほどほど=Don't mind (=Don't worry)。

「ほどほど」とはマイナスのイメージではない。
自分の能力を知っているからこそ適切な量・質の行動をできるということ、らしい。

今の自分にまさに必要な言葉だと思った。

1日40kmというペース、明らかに自分の限界を突破しているのは自覚している。
足の痛みと焦りがその証拠だ。
「ほどほど」のペースに戻すべきか…。

でも、今の気持ちを持ったまま、区切らずに88番札所まで行って結願したいという気持ちはある。
それはそれでアリ、だ。
でも、このまま焦ってハイペースで結願したとして、
それが果たして真の意味での結願たりえるだろうか?
単純に「全部まわりました」だけにならないだろうか?
菩提、そして涅槃の境地に至れるだろうか?

自分の中で何かしらの結論が出たら88すべてまわる必要は無い、とも教えてもらった。
逆に言うと、結論が出ない状態で88まわっても…



昼頃に内子に到着した。

ちょうどいい時間なので、一緒に愛媛名物の鯛めしを食べた。
有名な内子座にも寄ってみた。

ただ歩いて距離を稼ぐだけではない、
こうした歩き遍路同士での(或いは地域の人との)交流の時間を持つということ。

マサさんは内子で宿泊なので、今日の日程は終了。ぼくはまだ進む。
ここでお別れ。お互い良い旅を…!



ここからは久万高原に向かう緩やかな坂道を長く進むことになる。
山に囲まれた集落。川沿いの道、晴天。

近所のおばちゃんが急に走ってきて、大量のスモモをお接待してくれた。
疲れた身体に瑞々しく酸っぱい果物はめちゃくちゃありがたい。
ベンチに腰掛け、靴下を脱いで足を乾かしながら頬張った。



今朝目標にしていた野宿スポットはとうに諦めていた。
そこより手前にいくつか遍路休憩所があるらしいから、どこかでテントを張ろう。
川に降りれる場所があれば、そこで水浴びすればいいや。

と思っていたら、16半ごろ、シャワーの付いた休憩所を発見!!(もちろん冷水だけど)
寝袋を広げられるような1畳ちょっとのスペースもあるし、屋根も深いし、仮設トイレもあるし、
ここで寝ずしてどこで寝る?みたいな贅沢な休憩所だった。

日暮れまであと3時間あるけど、思い切って今日はここで休むことにした。

マサさんの言っていた「ほどほど」。
もしあの言葉を聞いていなかったらぼくはここから更に先に進んでいたのかな。

水シャワーを浴びてみた。ほてった身体が冷やされ、気持ちいい。
そして案外その後も身体があたたかい感じがする。

着替えを済ませ、寝床を作り、夕飯の菓子パンを食べながら川の音、鳥の声を聴く。
山の夕暮れは早い。辺りは次第に暗くなっていった。



日没ギリギリまで歩くのではない、歩き終わってから日没までの、
何をするわけでもないけどゆったり流れる時間を味わうという贅沢。

その幸せを、思い出した気がした。

21日目(2)


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