煩悩遍路C日目「煩悩即菩提」―菩提の道場―

松山での朝。今日一日ここでゆっくり過ごして、明日の昼に帰るのだ。

急ぎ起きて6時から歩かなくていい幸せ。
ベッドでゴロゴロとくつろぐ。

ゆったりと流れる時間を求めてお遍路をしていたはずなのに、
気づけば30km、40km、50km歩かなくては、と躍起になり、
その為には朝早くから夕方遅くまで……と自分を追い込んでいってしまっていた。
より速く、より遠く…これが「煩悩」なのだろう。

愛媛=菩提の道場にて、この呪縛から逃れられるかどうかが
四国遍路というもののミソなのかもしれない。
まあ、僕はここで一旦区切るんだけどね。

一階に降りるとオーナーがいた。
今晩お好み焼きパーティーをするらしく、参加することに。楽しみだ。

「この宿、一泊2,000円でやってけるんですか?」
「いい質問だね」
答えてはくれなかった。まあ、そういうことなのだろう。



午前中はリクくんと近所の文房具屋へ行く。
彼の今後のヒッチハイク用のスケッチブックとペンを買うのだ。

僕は僕で探しものをしていた。
ポストカードサイズの画用紙と、コピック。

絵を描きたいと思うようになっていた。
描いて、お世話になった人たちに送りたい。

鬱になってしまった4月には消え失せてしまっていた絵を描きたいという願望が
ここにきて復活していることに我ながら驚く。
そして、すごく嬉しかった。

そのお店には目当ての商品が無かったので、
宿のスタッフさんから教えてもらっていた別の大きな画材屋さんに行ってみることにした。
遠いので、レンタサイクルをする。ついでに温泉にも寄ってみよう。



道後温泉駅の近くで自転車をレンタルし、まずは大街道へ。
画材屋に行くと…ありました!画用紙、コピック。

早速描いてみる。
道後温泉の本館の絵を描いた。ひさしぶりなのでうまくペンが走らないけどまあいい。
描くこと自体が楽しい、それが一番。

近くで売っていた地ビールを描い、絵を添えてシロさんちに送った。
お世話になりました、と。泊まらせてもらったわけだしね。

続いて石手寺に行き、境内のスケッチをした。これは縁があったリクくんにプレゼントする用。
裏に「縁に感謝」かなんかの思い返すと恥ずかしいメッセージを書き込む。旅の恥は掻き捨て。


ひととおり予定してたことが終わったので、温泉へ。
49番浄土寺の近くまで戻るけど、そのそばに「たかの子温泉」がある。
ここ、実はお遍路0日目の宿で会った通し打ちのおばちゃんから勧めてもらっていた温泉。

その人は、ずっと足が痛くて引きずりならが歩いてたけど
ここの温泉に入ったらすっかり良くなったと言っていた。

というわけで気になってた温泉、まあきれいな施設だし広々してるし、いい温泉だった。
道後から少し遠いのが難点だけどそのぶん希少価値はあるような感じ。
少なくとも道後温泉のよ特徴のない泉質よりは温泉感はあるので、オススメ。



夕方、気持ちよく自転車でぶらぶら帰っていたら、繁多寺付近で見覚えのあるお遍路の後ろ姿が…

……!
あの土佐久礼で出会った!超高速マルさんではないか!

もうここまで来てたのか(笑)速い…
ぼくの足摺の車ワープ分をもう追いついたってことだよなぁ。

思わず声をかけた。先方も驚いてたけど、それは僕が自転車に乗っていたから。

「あれ?なんで自転車乗ってんの(笑)」
「松山で打ち止めにしたんですよ、今日は宿に連泊してて休養日なんでブラブラしてました」
「えー区切っちゃうの!」

マルさんは道後よりも少し先のビジネスホテルに予約を入れているようだ。
リクくんにも会わせたいし、夜にどっかで待ち合わせしましょうと、連絡先を交換した。

ここでもまた、不思議なご縁があったようだ。



宿に戻ったら、リクくんがいなかったので電話してみた。じきに宿に戻るとのこと。
帰ってきたリクくんに、早速マルさんに会ったとの報告をした。
当然笑っていた。

そして、石手寺で描いたスケッチを渡す。
「こんな才能が…(笑)」「大切にします!」と喜んでくれて、嬉しかった。
これまた押し付けがましい感じもしたけど、せっかくの縁だったから。
気持ちのお接待ということで。

自己完結ではなく、誰かのために描くという絵もまた、いいもんだなぁと思った。



宴会がはじまった。レッツお好み焼きパーティ。

オーナーに、道中出会ったお遍路仲間と会うのでその時少し抜けます、と伝えると、
その人も連れてくるといいよ、と言ってくれた。
その手があったか!というかオーナーさん優しい。肩の力が抜けてる。

つってもなかなかマルさんは来ないし、メールも返ってこなかったりして、
誘った自分としてはちょっとじれったく思うところもあったけど、
なんとか1時間かそこら経ったところで到着。
温泉に行ってから連絡とれなかったんだって。ああそうか。

ビールと高級(だが安売りしてたという)肉を手土産に。
なんか、土佐久礼の時から、もらってばっかりだな。申し訳ない。

そしてさらにその後、出張で来たという同年代のサラリーマンの男性も加わった。



話題はまず、お遍路について。

オーナーはその明るくフレンドリーなキャラクターに加え、話が上手かった。
お遍路さんが多く泊まることもあって、遍路に関する知識やネタが尋常じゃなく豊富。

職業遍路から教えてもらったという句を教えてくれたり、
職業遍路に宿のタオルをよく採られるという体験談を語ったり。

このゲストハウスは「遍路ころがし」ならぬ「遍路ごろし」という。
なぜなら、この宿でリタイアしてしまうお遍路が多いからだそうだ。

何を隠そう、僕もここで最後だしな…って、ぼくは宿に来る前からここで終えると決めてましたし?

ここの居心地の良さ、オーナーやスタッフの「あるがまま」な生き方にほぐされて、
お遍路すべてを回りきる!というピンと張った糸が切れてしまうのかもしれない。

或いは、遍路を止める理由を探している者が、その理由をここで見つけてしまうのかもしれない。

「お遍路は悟りを目指す旅だけど」
「全部回る!というのが悟りの境地から一番遠いんだよね」
「だから途中で悟るとお遍路をやめちゃうの」

オーナーはそう言う。

たしかにそうだ。

88箇所回るという目的を達成したいという「欲」を満たすということ自体が、
遍路によって悟りをひらくということと相矛盾する。
でも、そうするとお遍路という存在って一体…(苦笑)。


あとで聞く所によると、これは「煩悩即菩提」という概念らしい。

煩悩の概念そのものがなければ、相対的な悟りの概念もない。
煩悩を離れて菩提は得られないし、また逆に、菩提なくして煩悩から離れることはない。
色即是空、空即是色。

生きている以上、人から欲が無くなることはない。
物事に執着する(煩悩)=88ヶ所すべて回りきるというのが悟りの対極にはあるけれど、
その88ヶ所回りきるという欲や煩悩があってこそ、その先に菩提があるということだ。

そうすると、僕らがこうしてコンプリート目指して歩いているのも意味はある、と思えるよな。



だんだんお酒がまわってきた。

マルさんとオーナーはおそらく同年代っぽく、すっかり意気投合したようだ。
連れてきて良かったなと。

マルさんはお遍路2回目だと思ってたけど、じつは3回目だということが判明!
「全然悟れてないじゃないですか!!!!」と大声で煽ってしまった(笑)

彼は彼で
「いま足の調子がとても良いから、このペースなら20日で88ヶ所回りきる自信がある」
とかめちゃくちゃなことを言っていて面白かった。
そして必然的に
「君も最後まで行けばいいじゃん、次の病院の日までに絶対結願できるよ」
と煽ってくる。いやー…、それはそうなんですけどね(笑)

近くにピンク街がある関係で、少しエロい方向の話題も出た。
その都度オーナーが「不邪淫ですよ!」とツッコミ入れてくるのはもう笑う。
お遍路ならでは感。それがいい。
※不邪淫:十善戒のひとつ



夜も更け、宴会はお開き。終電を逃したマルさんは、歩いてホテルまで帰ることに。
僕とリクくんとで表の道路まで見送りに行った。

何を喋ったからは覚えてないけど、お互いの旅の無事と健闘を祈って、
握手して別れた。

速いペースで小さくなっていく彼の背中を見る。
もう会うことは、本当に、ない。



宿に戻り、数人を残して語り合いを続けた。

出張中のサラリーマンは、島巡りが好きらしい。
まあ、出張でこういうゲストハウスに泊まるくらいだから旅好きなのは当たり前か。

仕事との向き合い方、将来のこと、今後の身の振り方…。
同年代ということもあってか、僕と同じような悩みをもっていた。

酒+夜+非日常な空間。こういう場で知らない者同士で語られる本音トークは好きだ。


この充実した時間。
明日、お遍路をやめて帰るのが信じられない。
この空間にいつまでも居続けたい、旅をし続けたい。

でも僕はここで一旦区切るのだ。染み付いた煩悩を一度断ち切るためにも…。
でも帰りたくない…

もし7月も続けて休職するのなら…ここにもう一度泊まって、ここから再スタートしよう。
そう言い聞かせる。



本当に楽しい宴会だった。
旅の最後の日にふさわしい、夜。
ありがとう、みんな。ありがとう、ゲストハウスF。

C日目


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コメント

陽太 #-

四国巡礼の初めから読ませていただいていまして、今ここまできました。
思い出しながら書いていらっしゃるとは思えないほど鮮明な描写で、過去自分が短期間バックパッカーをしたときの記憶が蘇ったり、一緒にお遍路している気分にさせていただいたり、ワクワクしています。いづれ読み終わってしまうのが惜しいです。

描かれた絵がとても素敵だったので、ずいぶん前の記事にコメントを残すのも失礼かと思いつつ、コメントしたくなっちゃいまいした。
FC2ブロガーではない身で恐縮ですが、素敵なブログに出会えたことに感謝しています。引き続き読み進めさせていただきますね。

2017年05月19日(金) 09時36分 | URL | 編集

ちかひら(管理人) #-

>陽太さん

コメントありがとうございます!

バックパッカー経験者の方なんですね。旅先での記憶が蘇ったとのことで、こちらとしても嬉しく思います(^o^)

お遍路中はメモをよくしていたので、それを頼りにブログ書きました。少々大げさには書いてはいますが(笑)
お返事遅れてしまいましたが、もう読み終わりましたでしょうか。またコメントいただけると嬉しいです!

2017年05月27日(土) 10時57分 | URL | 編集


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