煩悩遍路26日目「ここは四国のこのあたり」―菩提の道場―

26日目(1)

目覚めてテントから起きると、例のお店のおばちゃんとお酒のおじちゃんが朝から話しかけてきた。
昨日も喋った内容と一部重複してたけど、まあそんなもんだろう。

今日も暑くなりそうだからと、おじちゃんは自動販売機のお茶をお接待してくれた。
申し訳ない。関わりを避けようとしていた自分が恥ずかしくなった。

この人は、子供を育て上げてもう独立したと言っていた。
そんな人でも、こうして平日の夜に公園の東屋でお酒を飲んでひとり夜を明かすような
事情があるのだろうか。
色んな世界がある。この人間という世には。



今日は今治から一気に南へ下り、伊予小松へ進む。

「愛媛県なのにどうして進路が南になるんだろう?」と思って全体地図を見てみたら、
なるほどと合点がいった。
プーマの顔が無くて左右反対になってる愛媛県の形の、
その切れた首から前足の付け根にあたる縦の部分に自分はいるのだ。
東側に海が見えるのもよく分かる。

日常生活の中で、頭に日本地図を描き、今自分がどの辺にいて、
どこからどこまで歩いていると思い描くような体験はそうそう無いだろう。

お遍路中はしばしば、こういった感覚がふと湧き出す。
特にぼくの場合は、後半になると常にこのことを意識していたように思う。

現地点が四国という島のこの辺にあって、自分はこっちを向いている。
ぐるっと廻ってきたんだ…と。
こういうのもきっと、歩き遍路の醍醐味。

そして、日本地図レベルの縮尺でも分かるくらいの長距離を歩いたんだという不思議な感覚。
達成感というか、充実感というか。



10時頃、58番仙遊寺に到着。標高255mといっても思ったより山の上にあった印象。
区切り打ちの人だろうか、女性が手前の山門でかなり疲弊していた。
頑張りましょうと挨拶をする。

このお寺は宿坊もあって、風呂ヨシ、精進料理ヨシ、とのこと。
実は(とっくに結願していた)マルさんから、
松山以降の見どころやオススメ宿、グルメなどがびっくりするくらい大量に書かれたメールが
1週間以上前に届いていたのだった。
そのリストの中にはこの仙遊寺も入っていた。

そもそも宿坊というものに泊まってみたいし、
風呂ヨシ、精進料理ヨシとくればますます垂涎モノだったけれど、
残念ながら午前中の到着ということでタイミングが合わず、今回は見送る。



猛暑の中お寺に到着し、水をガバガバ飲んでいたら、車遍路のおっちゃんが話しかけてきた。
歩き遍路を通しで3回やったことがあるという。

「この時期の遍路は一番蒸し暑くて大変。でも思い出にきっとなるよ」

思ったのは、歩き遍路経験者は歩き遍路によく話しかけてくれるということ。
過去の自分を投影して、ほっとけなくなるのだろうか。

もしそうした連鎖があるのなら、それは素敵なことだな、と思った。



身体を冷ましてから、次の59番国分寺へと下山する。
視界の左奥に、今朝寝ていた今治市街と隣接する海が見えた。

あっちが北。
地図と照らし合わせた。



今日もゆったり歩きで、湯ノ浦温泉に入ってから5kmほど歩いて、
番外のお寺の通夜堂に泊まろうかなと考えていたが、
天気予報をチェックすると明日から3日間雨らしい。

次のお寺である60番横峰寺は標高745m。石鎚山の中腹。
なるべく雨の振り始めにさっさとクリアするのが良いと考え、
今夜は急遽そのすぐ麓にあるビジネス旅館Kに泊まることにした。
電話予約して、当日でも宿泊OKとのこと。

さあ、ちょっと歩行距離は伸びるけど、ラスト一息がんばろう。
正面には、たぶん雲に隠れている石鎚山。
晴れてたらなぁ。



夕方18時、予定通り宿に到着。
お遍路0日目に通し打ちのおばちゃんから勧めてもらっていた宿。
彼女が言っていた通り、横峰寺への近道(遍路地図には載ってない)を教えてくれた。

全然ビジネス感が無く、むしろ昔ながらの民宿って感じでいいところだった。
ここでも洗濯。野宿遍路は洗えるときに洗うが吉。

しまったなぁと思ったのは、夕飯。
当日予約、それも昼過ぎに電話したものだったから、
申し訳ないなと思って何も聞かずに素泊まりで予約したのだが、
どうやらこの旅館は食べきれないほどの量の肉鍋が名物らしく、
もともと肉屋さんかなんかだった関係で、多分当日予約でも用意可能っぽかった。

先客が肉鍋で満腹になっているのをチラッと見るにつけ、
コンビニ弁当で満たされない胃袋がちょっぴり切なかった。



朝から雨の予報だ。雨のなかの登山は正直嫌だったけど、この先3日間雨らしいし仕方ない。
晴れていたら百名山である石鎚山も登りたいなとか思ってたけど、これも叶わず。
せっかく山開きの週だったのにな。

清瀧寺~青龍寺まで一緒だったイタルさんはこの先の西条市に住んでいると言っていたので、
メールしてみたら、なんとちょうど今ヨーロッパに旅してるらしい。
お遍路区切った直後にヨーロッパ旅って、やっぱりフットワークの軽さがすごいなぁと思った。

いつでも遊びに来てくださいとのことだったので、
今度いつの日か、石鎚山登山実行の際に寄ってみよう。

と、何となく遍路地図を読んでいると、巻末の方に石鎚山への登山ルートも掲載されていた。
そこの部分の注意書き。

「修行の道は厳しい。
西条市と横峰寺は現在星ガ森―河口―成就杜の歩道に「通行禁止」の札を表示している。
天候に配慮して、注意して歩けば通過可能であるが、自己責任で対処してください。」

怖いです。



部屋のブラウン管テレビを見ながら、いつの間にか夢の中へ。
雨が降り始めた。

26日目(2)

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