煩悩遍路27日目「プラスアルファ」―菩提の道場―

27日目(1)

雨です。そりゃ梅雨だもの。

宿の女将から、荷物は下山するまで宿に置いていっていいですよと言われたので、
お言葉に甘えて寝袋やテントなど野宿用具一式をザックから抜いた。
5kg減くらいだろうか。随分と軽く感じる。
一気に体重が軽くなったようで、逆に歩行時のバランスが取りづらくも感じた。



6:30、朝イチで標高745mの横峰寺への登山を始める。
家で時間をかけてメンテしたレインウェアは……開始30分で撃沈。
もう新しいの買う。ってお遍路に来てから何度思っただろう。
(新しいのを買ったのはその半年後のことでした)

自動車道の高架をくぐり、砕石場の横を抜け、山道・林道をジグザグに登ってゆく。
雨の山道はしんどいが、しとしと葉を叩く雨音や霧がかった荘厳な景色は今だからこそ味わえる。

9:30には60番横峰寺の境内に到着した。
完全にびしょ濡れになるこんな日も、歩き遍路の姿は見える。

その人は白髪のスポーティーなおじさん。お遍路初回、順打ち。
昨日は麓のもう一つの民宿Sに泊まったとのこと。
その宿でも横峰寺までの近道の地図をもらえるらしい。なあんだ(笑)

境内をウロチョロしたり、休憩所で缶コーヒーを飲んで一服したり。
雨+山の上ということで、次第に涼しくなってくる。

晴れていれば、奥の院の星ガ森から鳥居越しの石鎚山が拝めるようだ。
でも今日は雨。
やっぱり晴れが良かったなとは思うけど、また来ればいいだけのこと。山は逃げない。
と、登山者っぽいことを言ってみる。



今夜の宿は予約はしていない。でもなんとかなるだろう。
64番前神寺の近くに温泉がある。夕方までにそこに着いて、汗を流そう。
近くに東屋があるらしいので、そこで多分野宿できる。

というわけで、横峰寺さえクリアしてしまえば、あとはもうスケジュール的にも心理的にも余裕だ。
しっかりと休憩した。



一時間ほど経ち、境内を出ようとしていたら、地元のローカルTV局がお遍路の取材に来ていた。
で、当然インタビューされる。歩き遍路ですから。

「どこから来たんですか?」
「なぜ来ようと思ったんですか?」
「実際に歩いてみてどうですか?」

うーん…
なぜと言われても、「鬱になったから」とか言うとテレビ的に重いし…とか
色々頭フル回転させながらもまとまりなく喋ってしまった。
歩いてみてどうか?という質問には、地元の人が優しいです回答したような記憶がある。

ま、旅の良い思い出にはなったのは間違いない。
それにしても、カメラ向けられるとペラペラ喋っちゃうこの現象はなんなんだろうと思った。



下山。
途中から往路とは道を変え、白滝奥之院を通過して61番香園寺へ。
こんなお寺の位置が入り組んでる所でも律儀に番号順に打つあたり、自分らしいなと思う。

続いて62番宝寿寺も打った後、その足で宿に戻って荷物を回収。
ありがとうございました。無事下山しました。

荷物の重さが帰ってきた。重い安定感、慣れてるとやっぱりこっちがいい。



17時前に、ぎりぎりの時間で64番前神寺に到着。
雨ということもあってすっかり人気の無い境内。思ったより広く、雰囲気のあるところ。
納経所のお坊さんに話しかけた。

「すみません、このお寺には通夜堂はありませんか?」
「通夜堂は無いけど、すぐ下の東屋でよくテント張ってあるよー」

と、用意されていた細かな地図つきで丁寧に教えてもらった。
加えて、近くの温泉や夕飯を食べられるお店の情報も。

東屋のことは正直、ネットで予め知ってはいた。
でも、こうして現地でお寺の人に教えてもらうと心強いし、情報の確証性と野宿の安心感が違う。
ありがたいことだ。

きっと同じ質問をする歩き遍路が多いとは思う。
そういう状況に対して、親切に野宿場所やその他の情報を教えるという対応を選んだこのお寺は
歩き遍路からすると非常に助かる存在だなと感じる。
勿論、そういった親切な対応を裏切らないような常識ある行動が
歩き遍路には自ずと求められるわけだけど。
残念ながら、全員が全員そうした行動をとれるわけじゃなくて、
野宿禁止となった場所が少なからずあるのが悲しいところ。

翻って、自分が果たしてちゃんと常識ある行動のみ出来ていたかと言われると、
はっきりYesと返事できなかったりするのが悔しい。



東屋の場所と先客がいないことを確認してから、湯之谷温泉へと向かう。
温泉のスタッフの方は、濡れた靴を少しでも乾かそうと親切にも新聞紙を用意してくれた。
硫黄混じりのいいお湯で、雨で冷えた身体があたたまる。最高だ。

振り返ってみれば、お遍路を再スタートしてから、昨晩の民宿は除いて、
24日目、25日目、本日27日目と、野宿の日は必ず夕方に日帰り温泉に寄っている。
というか、温泉の位置を確認して野宿場所を決めていると言っても過言ではない。

歩き旅に慣れ、長距離歩行という煩悩からも解放され、
今、心の余裕をもって歩いている自分は、
そうした状況で、何かプラスアルファの楽しみというものを見出だせるようになっていた。

以前はトイレが近くなることを恐れて避けていた大好きなコーヒーを毎日飲むようになったり、
1日の疲れを癒やすため温泉を積極的に利用したり。

温泉への執着はこの後も断続的に続いた。
温泉代七百円は出すけど、宿代三千円はケチって野宿するという、
パット見、それほど節約できてない感のある行動も多々見られたけど、
それはもう、そういう価値観で生きてるということで自分を解釈するしかないなと思う。

何を外して何を外せないか。何にお金を費やせるか…。

お金を払ってでもやりたいこと。
多少疲労してでもお金をかけずにやりたいこと。
ケチって省略しても構わないこと。

そういったものが、こうした旅を長く続けていると見えてくるのは間違いない。



いい意味でストイックさが無くなってきているとも言える。
いわゆる修行からは遠ざかってはいるけれど、これはこれで必然の流れ。

自分なりの「菩提の道場」観が掴めてきたと実感したのはこの頃だった。


27日目(2)


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