煩悩遍路28日目「旅の総括に向けて」―菩提の道場―

今日の時点で、進んだ距離は既に全行程の8割に達している。

旅の道中に交わす会話の話題は、遍路同士、地元の人とにかかわらず、
これまでの旅の総括に関することが多くなってきた。

旅の終わりが、見えてきた。



7月9日(土)。
夜通し激しい雨が降っていた。深い屋根のある場所で野宿できたのは幸いだった。

朝になってもまだ雨はやまず、8時前まで東屋でうだうだしていると、若い歩き遍路がやってきた。
東京在住、通し打ちの絵描きさんだった。
生活のためにバイトもしつつ、油絵を描いてギャラリーに出しているらしい。
今回のお遍路は絵のモチーフ集めも兼ねているそうで、途中途中でスケッチもしているとのこと。

年齢はちょうど一つ上の27歳。そう、ちょうど。誕生日が一緒だった。
ぼくも絵が好きで趣味ですけど描いてます、と言うと喜んでいた。
不思議な巡り合わせだ。お互い笑顔になり、すぐに打ち解けた。

ここではヨシさんとでも呼んでおく。



雨も小降りになってきたので、出発。一緒に歩くことに。
石鎚神社の奥まに行きたいということで、少し戻るけど神社へと向かう。

立派な神社だった。敷地の面でも建物の面でも。
名前の通り、石鎚山を霊山とする山岳信仰の神社。

元々は神仏習合で、石鎚神社と64番前神寺は一緒だったけど、
明治時代の神仏分離によって廃寺となった。
明治11年に「前上寺」として再興、さらに22年に「前神寺」の呼称が再び許され、現在に至る。

という説明書きを読み、やっぱり山岳信仰に仏教が乗っかってた形なんだなと納得した。
前神寺という名前がすごく面白い。
ちなみに、60番横峰寺も当然石鎚山に関するお寺。

境内は少し高台にあるので、市街が眼下に広がる。霧がかって綺麗だった。
石鎚山への鎖場の写真を見て、すごいねぇと喋っていた。

そこからしばらく、また一緒に国道を歩く。
道沿いにあるスーパーに寄ってくとのことだったので、そこで一旦別れた。



昼ごはんに入った新居浜の蕎麦屋さん。
玄関に88ヶ所霊場の位置が書かれた大きな四国の絵が飾ってあった。
「新居浜に遍路のお寺は無いんだけどね」と笑いながらも、歓迎の気持ちが伝わってきて嬉しい。

実際、64番前神寺から65番三角寺までは40kmほど離れていて、
この新居浜を挟んだ区間を電車でワープする歩き遍路も少なくはないらしい。

店の主人だけでなく、お客さんからも声をかけられた。
自分のお遍路のこれまでについて話す。
そして聞かれる「目的は?」。
やっぱり一言では答えられないなぁ。一皮向けること。鬱治療。自分探し。etc.…



ここ新居浜には、四国中で一番有名と言ってもいい休憩所・善根宿Hがある。
名物のおばあちゃんが運営しているのだ。
テレビでお遍路特集の番組が放送される時は、高確率でこの善根宿が紹介されている。
ラストスパート、ここで新たな優しさをもらって、遍路達はまた歩き出すのだ。

そういえば前に出会った100日遍路をしているマサさんも、ここに泊まりたいと言っていた。

せっかく(?)なので、寄ってみることにする。ガレージが休憩所となっていた。
昼間ということで人気はない。
挨拶だけでも…と思い、奥の方まで行ってみると、おばあちゃんの姿が見えた。

この暑さのせいもあるのだろう、ちょっとしんどそうだったので、出てきてもらうのも申し訳ない。
ほんとに挨拶だけして、あとは休憩所でゆっくりさせてもらった。
かなりのご高齢だった。善根宿をやってくのもそろそろキツイんじゃなかろうかと。



しばらくすると、ヨシさんが追いついてきた。また少し、お喋りをする。

ぼくは休職前にデザイナーへの転職をしようともがいていたこともあって、
絵という点で近いアートの世界で生きているヨシさんを見て正直なところ羨ましいと思った。

その佇まいからは、自分でしっかり軸を持って生きているように見える。
一歳差とは思えない落ち着いた雰囲気。

彼はまだゆっくりしていくとのことだったので、ここで再び別れて、ぼくは先に進む。
雨はすっかりやんでいた。



四国中央市に入り、17時に、野宿予定の東屋へ到着。
すぐ隣にある番外札所の住職にも野宿の許可を得ることができた。
たまにお酒を飲んでうるさくする遍路さんもいて、近隣の住民の人に迷惑かかるから、
話し声には注意してねとのこと。やっぱりそういう人もいる。

教えてもらった近所のスーパーに夕飯を買い出しに行き、東屋のベンチで静かに夕食。

地元の高校生男女2人がそばのトイレに一緒に入り、30分ほど出てこなかった。
何をしてたんだろう…



今日も一人で寝るんだなぁと、寝支度をしていると20時頃にヨシさんがやってきた。
善根宿に16時までいたらしい。いくらなんでもゆっくりしすぎじゃないかと笑った。

彼はスーパーで買った食パンに、刻みキャベツとハム、そしてマヨネーズをかけて
即席サンドイッチを作っていた。THE・自炊組。

そんなたくましいヨシさんと、再び、寝るまで沢山の話をした。

アート、さらに発展して人生設計に関して。
「歩くことって、昔の人のものの見方を追体験することになるよね。遠景よりも近景をよく見る。その視点の違いは結構大きいと思う」
「自分の描きたい絵を描くか、売れる絵を描くかという問題にはぶつかる」
「自分の生き方の核となるコンセプトがしっかりあれば、その表現方法は何でも良いんじゃないか。わざわざ二足のわらじをしなくても、他の職業でだって、その職業なりの表現ができるはず」
「紆余曲折してる人は強い」
「自分がアートの道を選んだのは消去法。他に選択肢はなくて、これでやるしかない、と」

ぼくの悩んでいること、考えていることについての相談。
「人に嫉妬すること…自分ももちろんあるけど、それで落ち込むことはないかな。その人のスキルを認めて、自分は自分と落とし所を見つけられるようになれたらいい。楽になる」
「人と比べて落ち込むのは、向上心があるということでもあるから、その意味では良いこととも言えるね」
「ちかひらさんの“用意周到な野宿をしてしまう”という話は、君らしいエピソードで非常に面白い。しかもそれが実体験に基づいた話なのも良い」

あと一週間でお遍路が終わっちゃうという話題について。
「濃い日々だったからわりと満足してるよ。だからいつ終わってもいい。寂しくはないかな」

あー。良い人だな。この人は。
人間が出来てる。

羨ま……
いや、なんでもないや。



お遍路の再々スタート以来、久々の若い歩き遍路との交流ができたという事実。
こんな梅雨の時期に、貴重な出会いだったと思う。

お遍路があと一週間で終わってしまうという事実が迫ってきている。
ぼくは…正直、寂しいかな。

どんな気持ちでこの旅を締めくくろうか?
明後日にはもう、香川に入る。

28日目


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