煩悩遍路・番外篇「雪の七ヶ所まいり」

EX日目

2013年7月末。
学生最後の夏休み。

大好きな旅エッセイスト宮田珠己の『だいたい四国八十八ヶ所』に影響を受けたぼくは、
研究の合間を縫って、気まぐれひとり旅をしようとしていた。
行先は未踏の地、四国。
ついでにスケッチもしてみよう。スケッチ旅なんて、楽しそうじゃないか。

香川から始まったその旅は、電車やバスで各地の民宿やゲストハウスを繋いでいく。
はじめての土地、はじめてのひとり旅。
うどん、瀬戸芸、祖谷渓、お遍路さん、渦潮、室戸岬、カツオ、龍馬、
鍋焼きラーメン、道後、村上水軍。

絵を描いていると色んな人から話しかけられた。
ゲストハウスでは色んな人と交流できた。色んな人生を垣間見た。
旅の素晴らしさに浸りまくった2週間だった。

スケッチ旅の様子↓
<http://dimensionf.web.fc2.com/landscape.html>




2014年2月中旬。
あれから半年が経った。
修士論文の発表が終わったぼくは、香川の善通寺市にあるゲストハウスKを再び訪れていた。
半年前の旅で、初日・2日目と最終日にお世話になった宿。
ひとり旅ビギナーだったぼくにとって、この宿ははじめてのゲストハウス体験の場でもあった。

今回も一家揃って歓迎してくれた。
夏の旅はここから始まったんだよなと思い出して、その居心地の良さに改めて笑顔になる。
閑散期ということもあって、2泊とも宿泊客はぼくひとり。

オーナーに翌日することの相談をする。
うどん屋さんは今日何軒か行ったし、讃岐富士も登ったし…と言っていると
歩くの好きでしょう、と「七ヶ所まいり」を勧めてくれた。
それは、ここ善通寺近辺にある霊場七ヶ所(71番から77番まで)を1日で巡礼するというもの。
プチお遍路体験か。面白そうだ。



翌朝、弥谷寺まで車で送ってくれた。雪が積もっている。
「このへんで積雪が見られるなんて何十年に一回やで」と肩を押してくれた。
いっちょ歩いてきます!

雪の弥谷寺は黒い緑に包まれ、神聖で厳かな雰囲気だった。
迷路のように階段が張り巡らされた境内を歩く。

そこからは山道に逸れ、曼荼羅寺へと向かう。
地図は持ってないが、遍路道のマークがあるから迷わず行けるよ、とオーナー談。
たしかに、至る所に赤いマークがある。こんなのが四国中にあるんだ。

曼荼羅寺にはバスのお遍路さんの団体さんがいた。お経の声量がさすがで、圧倒される。

出釈迦寺の奥の院として、山の上に「捨身ヶ嶽禅定」がある。
山と聞けば登らないわけにはいかない。
…と登ったはいいが、傾斜のきついコンクリ道で、しかも雪が5cmは積もっている。
滑るのを用心しつつ、上まで辿り着いた。
眼下には善通寺市街が一望できた。凄いところに来ちゃったなぁ。

さらに奥には行場があって、岩肌が露出していた。
さすがに生命の危険を感じたのでその先はやめておく。また季節のいいときに来ればいい。

そこからは甲山寺、善通寺、金倉寺、道隆寺と順にお参りしていった。
途中にあるうどん屋さんにも4軒寄った。
7~8時間かけてフィニッシュ。膝がガクガクだが、歩くのって楽しい。

お遍路の恰好もしてないし、読経も納経もしてない。
地元の人と何かしらの交流をしたわけではない。
でも、遍路道を歩いてみて思うことがあった。

国道や県道の他にパラレルな存在として遍路の為の道があって、
しかもこの道が四国を一周しているなんて、不思議だし、すごい。
半年前に四国各地で出会ったお遍路さんはみんな、この道を通ったんだな、と。

今日以上の距離を毎日40日以上歩き続けられるか、というのは置いといて、
いつか自分もお遍路をやってみたいなと思った。いつか…



夜も、オーナー夫婦と旅の話をずっとしていた。
半年前のぼくの旅の話。むかし2人が旅した国の話。この宿に泊まる人々の話。

その話の中で、沢木耕太郎の『深夜特急』という本を紹介してくれた。
ユーラシア大陸をデリーからロンドンまでバスだけで旅をするという、
作者の実体験を元にした酔狂な旅物語。

一昔前に日本中の旅人の間で大ブームとなり、真似してアジア放浪旅をする人も多かったそうだ。
いまでも旅人のバイブルとして読み継がれている。



つい半年前まで縁のなかった「旅」。
いまやどっぷり旅の魅力に取り憑かれている自分がいた。
でも、こうしてまた旅に出てきて、旅の先人たちと交流している時間が何よりも楽しかった。
もっとのめり込んでもいいのかもしれない。

半年前の旅の最終日、
このゲストハウスに同泊していたガチの放浪おじさんから言われた言葉を思い出す。
「君はいつか会社辞めるよ。もう旅の病気にかかってる」
旅病という言葉を知ったのもその時だった。


旅帰りの電車の中で、真っ暗な車窓を眺めつつ、早速買った『深夜特急』を読んだ。
かなり毒気のある物語で、その独特の世界観に引き込まれていく。

1巻の巻末の対談で、作者は26歳のときにはじめてこの外国への旅をしたと語っている。
対談相手もたまたま26歳ではじめて外国に旅をしたらしい。

26歳くらいが外国へ「旅」をするのにちょうどいい年齢だと言っていた。
もちろん、自分達の経験を正当化するため(と彼らは言っている)という側面はあるけれど、
いち読者としてはその年齢が輝いて見えたのだった。



26歳の旅か…。その時ぼくは何をしてるんだろう。

七ヶ所まいりを終えたぼくは、頭の片隅に四国遍路という瘤を抱いたまま、
その春、就職した。

24歳の時のことである。


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