煩悩遍路36日目「結願」―涅槃の道場―

7月17日(日)。
発願の日から2ヶ月と1日が経っていた。

今日で歩き終える。あいにくの雨だけど、昼には晴れるとの予報だ。

36日目(1)

7時半、86番志渡寺を打つ。
緑の多い境内は静かだった。

ここから一路、南に向かう。正面に見えているのは大窪寺のある女体山だろうか。
 
36日目(2)

87番長尾寺では、近所の住民の方々がテントを設営して大勢でお接待をしていた。

今年は逆打ちがご利益があると言われており、特に車遍路は逆打ちの人がほとんど。
そういった人々にとって、ここ87番札所は、2番目のお寺となる。
これからの長い旅を前に、明るさとぎこちなさのあるお遍路さんたちで賑わう境内。

これまで長い距離を歩き、神経が摩耗し、世間から浮いたような佇まいと、遠くを見るような目を獲得した自分が
この場で明らかに異質なものであったのは間違いない。

ここにきて、気持ちがふりだしに戻されたような、自分だけハブられてるような感覚。
ま、気にしないことだ。

これまでのお遍路の日々を思い出そう。
出会った人々を思い出そう。
その積み重ねの上に、今の自分がいるのだ。

36日目(3)

前山ダムのそばに、「おへんろ交流サロン」という施設がある。
この施設では、お遍路の歴史や、関係する物品の展示の他に、
88番札所の結願を前に、結願したことの証明である「遍路大使任命書」を発行してもらえるのだ。

歩いた証明?この黒い肌と、すり減った金剛杖です。

係の人から、遍路道を世界遺産に、という署名をお願いされたが、やめておいた。
多くがアスファルト道なので、現実として世界遺産にはなれないだろうし、
ならない方が良いと、歩いていて思った。
四国には、生活をしている住民がいるから…。

36日目(4)

逆打ちの自転車遍路のおじさんと少し喋ってから、互いの健闘を祈り、出発。
時刻は12時。サロンでもらった地図を頼りに、女体山へ、最後の登山。



誰ともすれ違わない、山道。
廃村、壊れた民家。
軒下で、犬が悲しい声で鳴いていた。誰が世話しているのだろう。
鎖につながれ、通りすがりの歩き遍路に吠えるしかない犬たち。

遍路は自由だ。世俗という鎖は断ち切っている。
それでも、その犬たちと自分とを重ね合わせて見てしまう自分がいたのも、事実である。

36日目(5)

36日目(6)

36日目(7)

36日目(8)

こんな山奥でも田んぼがあった。
徳島を歩いていた5月、まだ数センチだった稲も、今ではもう大きくなっていた。

36日目(9)
 
36日目(10)

女体山山頂まであと1km。いよいよ最後の山登りだ。
旅の道中に出会った人々とのエピソードを思い出しつつ、歩く……
とかいう余裕はまったくなく、急坂を登るので精一杯だった。
曇天+霧でものすごく蒸し暑い。汗もありえないくらいに出る。
タオルを何度も何度も絞っては、登っていく。

36日目(11)

36日目(12)

36日目(13)

36日目(14)

荒々しい岩がむき出しになっている。その岩に刺さった金具。
修行感は存分にあった。



そして、女体山山頂……。



……真っ白だった。霧がかかり、視界は全く見えない。
晴れていれば香川が一望できると聞いていたんだけれど。

36日目(15)

聞こえるのは自分の荒い息づかいだけ。
白い霧は、すべてを包み込んでいた。
飛び出している岩に座り込み、焦点のつかめないその空をしばらく眺めていた。



これほどまでに雨男かと。横峰寺も、雲辺寺も、雨だった。
梅雨どきだからとは言っても……。

「真っ白なキャンバスに、自分の手で、未来を描け」という無理矢理なメッセージを思いついた。
或いはその逆かもしれない、とも……



仕方ない。今回はそういうことだったんだ。
変わらぬ景色を目に焼き付け、山頂を後にした。

こうした幻想的な光景を見れたのも、霧のおかげと思えばいい。

36日目(16)

きれいに整備された山道を下っていく。
雲間から、待ちくたびれた青空が見えた。

36日目(17)

36日目(18)

少しずつ結願が迫っていた。

眼下に88番大窪寺が見えた。
まだ気持ちの整理が付いてない。思い出も消化できてない。
それでも、足は前に進み、結願という現実がやってくる。






15時半、結願。






終わった。

36日目(19)

泣かなかった。泣けなかった。
放心状態。ホッとしたような、さみしいような、達成感、昂揚感。

境内にいる他の人との温度差を感じた。
気持ちのもっていく先も無いようだった。

徳島から、36日かけて、ここまでほぼ歩いてきた。
実感が無い。区切り打ちだったせいかもしれない。分からない。

「26歳は旅する年齢」と沢木氏は言った。
ぼくはお遍路がしたかった。きっかけは鬱なれど、今日こうして夢を実現した。できたんだ。

お遍路中は、歩くことに専念できた。ゴールがあった。
今日ゴールした。
明日からどう生きればいいんだろう。

明日も歩いている気がする。



近くの男性にお願いして、写真を撮ってもらった。
すんなり引き受けてもらえた。言外に「結願おめでとう」の意があるようにその時は思えた。



お寺の前にあるお店に金剛杖が立てかけてあった。
自分のとくらべてみると、自分のは30cmくらいすり減っていた。
普通は10cmくらいらしいが…かなり強く地面を叩いてたんだろうな。

36日目(20)

新品の靴も、おつかれさん。

36日目(21)

お店では、結願所名物の「打ち込みうどん」をいただく。
座敷には静かな風が通り、時間がゆっくり流れていた。
結願おめでとうございますと、コーヒーを接待していただいた。



今夜は近くの東屋に、テントを張って野宿する。
明日からは、数日四国を観光してから、高野山へ行こう。
まだ旅は続くのだ。

賑わっていたお寺も静かになった。
暗い東屋の下で、お遍路を振り返る。

このお遍路で、具体的な結論は出なかった。
でも、お遍路をしたという事実と、沢山の感じたことを武器に、これから生きていけるはず。

36日目(22)

ひぐらしが鳴いている。
いつの間にか季節は夏になっていた。

 

総距離:約1,200km(歩行距離:約1,050km)
日数:36日
発願日:2016年5月16日
結願日:2016年7月17日

地図


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コメント

Y #-

おめでとうございます。初コメです。
すごいなあ~、すごい距離、歩いたんですね!
色々、複雑な心境かもしれませんが、この距離を歩いたことは、事実。今はわかならくても、これからの人生の中で、見えてくるかもしれませんね・・・
とにかく、一つの区切り、おめでとうです!

2017年03月11日(土) 07時50分 | URL | 編集

ちかひら(管理人) #-

>Yさん

ありがとうございます!
振り返ってみるとかなり歩いたなぁという感想です(笑)
なかなかできる経験ではないので、今後も何かしら思い出しつつ、人生に指針にしていくことになりそうです。

2017年03月15日(水) 10時20分 | URL | 編集


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