仮面の告白 その2

三島由紀夫の「仮面の告白」の中の同性愛者として共感できる箇所を引き続きピックアップします。
その1はこちら

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屡ゞいうとおり、私には異性の肉感についてまったく定見というものが欠けていた。それがよい証拠に、私は女の裸体を見たいという何らの欲求も知らなかったのだ。


…自分の冷ややかな持続性のない感情を、女に飽き果てた男のそれになぞらえることで、大人ぶりたいという衒気の満足をまで併せ果たしていたわけだった。


およそ何らの欲求ももたずに女を愛せるものと私は思っていた。これはおそらく、人間の歴史がはじまって以来もっとも無謀な企てだった。


私は理会した。私が軍隊に希ったものが死だけだというのは偽わりだと。私は軍隊生活に何か官能的な期待を抱いていたのだと。


他の青年ならどう感じるだろう、正常な人間ならどう感じるだろうという強迫観念が私を責め立て、私が確実に得たと思った幸福の一トかけらをも、忽ちばらばらにしてしまうのであった。
例の「演技」が私の組織の一部と化してしまった。


明る日一日私はもう彼女を愛さなければならぬという当為を免かれた安らかさの中にいた。


お前の年頃の男は若い女を見るときに彼女の裸かを想像しないではいられないという自明の理ぐらい、お前にも御得意の類推で見当がついていそうなものだがね。


あのときお前が心に浮べたのは断じて園子ではなかったようだね。


よく日に焼けた・いかにも知識とは縁の遠い・初心な口もとをした若者達だよ。お前の目はそういう若者を見ると、忽ち胴まわりを目測するのだね。


お前は心の中で、昨日一日のうちにそういう若者を何人裸かにしてみたことか。


…突然唇が重い油っこいもので密閉された。歯がかち合って音を立てた。私は目をひらいて見るのが怖かった。そのうちに冷たい掌が私の頬をしっかりとはさんだ。


私は千枝子と抱きあいながらひたすら園子を思った。これ以降の私の考え事は園子と接吻するという空想に集中した。それが私の犯した最初の、そしてまたいちばん重大な誤算であった。


そしてこうした不自然な冷たさが、最初の接吻に快感がなかったとことに由来しているという事実には目をふさぎ、園子を愛していればこそそれが醜く思われるのだと自分に思い込ませた。


ホテル。密室。鍵。窓のカーテン。やさしい抵抗。戦闘開始の合意。……その時こそ、私は可能である筈だった。天来の霊感のように、私に正常さがもえ上がる筈であった。まるで憑きものがしたように、私は別人に、まともな男に、生れかわる筈であった。


私は演出に忠誠を誓った。愛も欲望もあったものではなかった。


接吻の中に私の正常さが、私の偽りのない愛が出現するかもしれない。機械は驀進していた。誰もそれを止めることはできない。
私は彼女の唇を唇で覆った。一秒経った。何の快感もない。二秒経った。同じである。三秒経った。――私には凡てがわかった。


逃げなければならぬ。一刻も早く逃げなければならぬ。私は焦慮した。


出発の朝、私はじっと園子を見ていた。旅行者が今立去ろうとしている風景を見るように。
凡てが終わったことが私にはわかっていた。私の周囲の人たちは凡てが今はじまったと思っているのに。


ものに譬えようなら、明るい正午に午砲の鳴りだすのを待つ人が、時刻をすぎてもついに鳴らなかった午砲の沈黙を、青空のどこかに探り当てようとするような苦しみだった。怖ろしい疑惑である。午砲が正午きっちりに鳴らなかったことを知っているのは世界中で彼一人だったのである。


娼婦が口紅にふちどられた金歯の大口をあけて逞しい舌を棒のようにさし出した。私もまねて舌を突き出した。舌端が触れ合った、……余人にはわかるまい。無感覚というものが強烈な痛みに似ていることを。私は全身が強烈な痛みで、しかも全く感じられない痛みでしびれると感じた。私は枕に頭を落した。
十分後に不可能が確定した。恥じが私の膝をわななかせた。


例の一夜からの無力感が生活の隅々にはびこるにつれ、心は鬱して何も手につかない数日がつづいた。


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これで終わりです( ´Д`)=3
読んでいてこれらの箇所がピーン!ときましたね。

この本は、ゲイとしての自分を受け入れるきっかけにもなった本なので、
いろんな人に読んで欲しいです!

一昔前の小説なので、「倒錯者」って出てきて、
ああ、昔は同性愛は倒錯と考えられていたんだな~(今もそう思ってる人は多いけど)と
思ったりもしました 笑

そういえば何年か前に、親(文学部)が三島由紀夫について喋ってたとき、
三島は幼少のころ女に囲まれて育ったから同性を好きになったし、男らしくないのが嫌で身体を鍛えた
とかいったことを言っていたなぁ…(´ε`;)

同性愛者って「なる」というよりかは「元々そうだった」って感じだと思うので、
ちょっと違うかな~なんて。

文学者が三島由紀夫を同性愛の観点からどのような研究をしているのか、気になるところです。
そういう本売ってないかな~?
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